第116話 エピローグ(12)
心配そうに見下ろしてくる彼に、私は慌てて「なんでもないよ!」と笑ってみせる。
「あ! そうだ! ねぇ、青島くん。部活が終わったのなら、一緒に帰らない?」
思い付いたまま口にすると、彼は少しだけ目を見開いた後、「いいけど……」と呟きながらも苦笑いをする。
「えぇー!? ダメなの?」
私が口を尖らせると、彼は慌てた様子で手を振った。
「いや、違うよ。もちろん、全然OK。むしろ、大歓迎だけど……。その、白野は俺と帰っても良いのか? 俺たち、って言うか俺、お前に告白しっぱなしなんだけど……そりゃ、待つとは言ったけどさ……」
最後はゴニョゴニョと口ごもりながら話す彼を見ているうちに、私は彼と最後に話した時のことを思い出す。
『付き合いたい』と言われた時、私は曖昧な返事をしてしまった。何故なら、その時の私は、彼への想いが分からなかったから。そして、それは今も変わらない。
私は、まだ自分の気持ちが分からない。どうして自分がこんなにも彼に惹かれるのか、自分の気持ちに答えを出せていない。それでも、彼と一緒の時間を過ごしたいと願ってしまう。もっと彼のことを知りたいと思ってしまう。そんな自分に、私は気づいていた。だから私は、こう答える。
「良いに決まってるじゃん」
そう言って笑うと、彼は嬉しそうに顔を綻ばせた。
二人で並んで校門に向かって歩き出す。隣を歩く青島くんを見上げると、目が合った。
「白野は、これからどこか行くのか?」
「ううん。特に用事はないから、このまま帰るつもりだよ」
「じゃあ、ちょっと寄り道しようぜ」
「うん」
自然と緩む頬をそのままにして、私は微笑んだ。そのまま歩いていると、ふと、視線を感じた。
なんだろうと振り返ると、そこに一人の女の子が立っていた。木本徳香だ。彼女の顔を見て、私は思わず息を呑んでしまった。
「どうかしたのか?」
立ち止まった私を不思議そうに見下ろした青島くんは、私と同じ方向に顔を向ける。
彼女は、とても悲しげな表情をして私たちを見ていたが、しばらくすると、パッとスカートを翻し駆けていった。
「行こう」
「あっ……うん」
青島くんに声をかけられ、ハッとする。私たちは、再び歩き出した。
先程まで感じていた穏やかな空気が消え去り、私たちの間が妙な緊張感で満たされている。それを払拭するように、私は努めて明るい声で話しかけた。
「ねぇ、どこに寄っていくの?」
私の声につられるように青島くんも笑顔を浮かべて答えてくれた。
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