第112話 エピローグ(8)

「……そんな……」


 私の言葉に女子生徒が息を飲んだ。


「でも、きみ達だって本当は分かっていたんじゃない? いつかは別れの時が来るってこと。それに彼女は、その時が近いことをもう悟っているよ」


 先ほどまで緑の絨毯を無邪気に眺めていたはずのココロノカケラの少女は、いつの間にか友人たちをしっかりと見つめ、寂しそうな笑みを浮かべていた。


 そんな少女に友人たちはソロリと近づいていく。互いにはっきりと別れを意識した彼らのそばから私とフリューゲルは、そっと離れた。最後の時間は、気の置けない者たちだけで大切に過ごしてほしい。そう思いながら、私は傍らの双子をチラリと見上げた。私もその時のための心の準備をしておかなくては。


 彼らの輪から少し離れた花壇の様子を見ながら、私はそっとフリューゲルに声をかける。


「ねぇ、フリューゲル。私もあの子のこと忘れちゃうのかな?」

「まぁ、そうだろうね。完全に融合が終わってしまえば、きっと」

「そっか。そうだよね……せっかく仲良くなれたのに忘れてしまうなんて寂しいな」


 ほんの少し交流を持っただけの私ですら寂しいと感じてしまうのだから、涙ながらに別れを嫌がっている彼らの気持ちを思うと胸が苦しくなった。


「天使様の力で何とかしてあげられないの?」

「僕は、アーラの、白野つばさの守護天使で、きみを見守ることが役目なの。他者に干渉できるような力は持ってないよ」

「なんだ。天使様って言っても、大して役に立たないのね」


 私が唇を尖らせると、フリューゲルにジロリと睨まれた。以前よりも随分と表情豊かになったフリューゲルの怖い顔に思わず肩を竦める。


「ごめん。言い過ぎました」


 項垂れながら謝ると、肩にフリューゲルの手がポンと置かれた。


「まあ、何とかしてあげたいって気持ちは分かるけどさ、本当に僕たちには何もできないんだよ」

「……そう、だよね」

「……僕たちに出来ること。それは、ただ祈ることだよ」

「祈る?」


 フリューゲルの言葉に私が顔をあげると、フリューゲルは自信満々に頷き返した。


「誰に何を祈るの?」

「それはもちろん。神様と大樹様リン・カ・ネーションに、彼女たちの幸せをだよ」

「聞き届けて下さるかしら?」

「それは分からないけれど、僕たちに奇跡をもたらしてくださったのは、あの方々なんだから。きっと、できなくはないさ」


 そう言われると、なんだか本当に願いが叶えてもらえるような気がしてくる。フリューゲルの言葉には不思議な力でもあるのだろうか。

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