第103話 冬の章(31)

「あ、あの……。フリューゲルがそばにいるとは、どういう意味でしょうか?」


  Noelノエルでなくなる私はもう庭園ガーデンと関わり合いのない存在になってしまうのだと思っていたのだが、そういうわけではないのだろうか。しかし、下界に暮らす人たちが庭園と交流を持ったという話など、これまでに聞いたことがないように思うのだけれど。


 混乱で瞬きを繰り返す私の視界の中に、満面の笑みのフリューゲルが映りこんだ。


「僕がこれからもきみのそばにいる理由。それは、僕がきみの守護天使になったからだよ」

「守護天使?」

「そう。天使になった僕は、アーラの守護天使になってそばにいることを決めたんだ」

「決めたって……」


 フリューゲルは自信満々に胸を張る。その瞬間、彼の頭上で金の環がキラリと光った。まだ見慣れない綺麗な背中の羽をパサリと広げたフリューゲルは、嬉しそうにニコニコとしている。そんな彼に、私は驚きと呆れの混じったような声を返し、ちらりと司祭様へ視線を投げる。私の視線に気がついた司祭様は、柔和な笑みを崩さずに静かに頷いた。どうやらフリューゲルが私の守護天使になるという話は本当のことのようだ。


「守護天使って、一体何をしてくれるの?」


 少しだけ意地悪な質問をしてみる。だって、そばにいてくれるって言っても、私が下界の人になってしまったら、きっと私にはフリューゲルの姿は見えなくなってしまう。そんなのは、いないのも同然。私は、そんな分かりきった答えを胸に抱きつつも、挑戦的にフリューゲルを見つめた。


「何もしないし。何もできないよ」


 ほら、やっぱりね。私の予想通り、フリューゲルは小さく首を振った。そんな答えになることは初めから分かっていたのに、寂しくなって、私は俯いた。


 そんな私の頭上に、フリューゲルの声が静かに降り注ぐ。


「でも、いつもアーラのそばにいて、アーラの健康を、アーラの心の平穏を、アーラの日々の幸せを、祈り見守ることはできるよ。だって、それがきみの守護天使たる僕の務めだからね」


 フリューゲルの声に私が顔をあげると、私を愛おしそうに見つめるフリューゲルの視線とぶつかった。私を見るフリューゲルの顔には、温かな笑みが広がっていて、それは隣に立つ司祭様の慈愛に満ちた笑みとそっくりだった。


「フリューゲルってば、何だか司祭様みたい」


 彼の笑みにつられて私が口元を綻ばせると、フリューゲルはチラリと司祭様に視線を向けてから、照れたようにはにかんだ。

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