第92話

 地下迷宮100階層。

 その扉の奥には一体何がいるのだろうか。

 オレたちはそんなことを思いながら、大きな扉を開けた。

 そして扉の奥、何やら封印でもされているのだろうか、黄色い色をしたカーテンのようなものにさえぎられている、そこにいたのはスライムだった。

 だがオレが求めていたのはスライムではない。

 最強のイメージのドラゴンである。

 もしくは可愛い可愛いお姫様である。

 スライムなんていらない。

 最弱のスライムなんていらない。

 可愛いからといって、最弱なんていらないのだ。

 というわけで、オレはそっと扉を閉めた。

 中にはなんのモンスターもいなかった。

 そしてお姫様なんていなかった。

 いいね。

 ここには何もいなかったんだ。

 ということにして、オレたちはこの場から立ち去ろうとした。

「何もいなかったわね」

 というエルマ。

「そうだな。せっかくここまできたのに、モンスターもいないとはな」

 というのはエレン。

 みんなががっかりしながら、オレたちは地下迷宮から出ていこうとした。

 そしたらしめていた扉の奥からかわいらしい声が聞こえてきた。

「きゅううううううううううううううううううううううううううううううううううう」

 というかわいい声。

 これはスライムの声なのだろうか。

 ずいぶん可愛い声ですね。

 だがどんなに可愛かろうと、声がかわいいだけの最弱のスライムなどいらないのだ。

 スライムというのはゲームの序盤で出てくるモンスター。

 獣人はもふもふできるけど、スライムなんてもふもふできない。

 なんて思いながら、オレたちは気にせずにまた帰り支度を始める。

 ほかのメンバーも帰り支度を始める。

 スライムなんて最弱なモンスターは仲間にしたいとは誰も思わないし、そしてせっかくダンジョンの100階層まで来たのだからと期待させておいて、そこにいたのがスライムなんてひどすぎる。

 ドラゴンがいればよかった。

 姫様がいればよかった。

 なんでよりにもよってスライムなんだよっ。

 だがスライムのかわいい声は続く。

「きゅううううう。きゅううううううううううううううううううううううううううううううう。きゅうううううううううううううううううううううううううううううううう」

 なんだか必至だな。

 なんかやたら必死だから、スライムの相手を少しだけならしてやろうか。

 え? 本当に中に入るのか?

 中にいるのは最弱のスライムだぞ?

 という顔をしているのはエルマとエレン。

 だがオレは声が可愛かったので、扉を開けて、中に入っていく。

 封印された場所の奥にいるのはスライムだった。

 青色のスライムである。

 その頭はとんがっている。

「きゅううううううううう」

 というスライム。

 オレはこのスライムにここに来た経緯を話してやった。

 異世界召喚されたこと。

 城から追放されたこと。

 飯を食うためにクエストをやってきたこと。

 クエストをやっていたら紅蓮の炎のメンバーに声をかけられたこと。

 ゴブリンスレイヤーのメンバーを試練の最中に助けたこと。

 ダンジョン攻略で、オークディザスターを魔物の肉を食べたこと。

「きゅうううううう。きゅううううううううううううううううう。きゅうううううううう」

 なんだかスライムと話が通じている気がする。

 スライムが封印されている壁には、かなりの力を感じる。

 この封印を解くことがオレにできるだろうか。

 無理ではないだろうか。 

 そのことを大賢者に聞いてみることにした。

 この封印を解き放つことはできるのだろうかと。

 大賢者は言った。

 できます、と。

 主様なら、封印からこのスライムを解放することができます、と。

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