第93話
国王は軍団長の話を聞いていた。
軍団長の話は何やら回りくどかった。
軍団長の話によると、オークディザスターを討伐したのは異世界召喚者だという。
それは間違いないらしい。
だがオークディザスターを討伐したのは異世界召喚者なのに、軍団長は何やら冷や汗をかいている。
異世界召喚者が討伐したということは、リュウノスケ、ショウヘイ、アヤノ、二人のミコトがオークディザスターを討伐したということだろう。
ならそれでいいではないか。
異世界召喚者たちにゆっくりと休むようそう伝えてくれ、軍団長に伝えても、軍団長はその場に膝をついたまま戻ろうとしないのである。
軍団長はその場から動かないのである。
その軍団長の顔には何やらまずいとでも言わんばかりの量の冷や汗が流れているばかりなのである。
だらだらだらと軍団長は汗をかいている。
軍団長は何か言いたいことでもあるのだろうか。
軍団長は何か失態でもおかしたのだろうか。
理由はよくわからないが、軍団長の冷や汗はすごい。
猛烈な量の汗をかいている。
国王は軍団長が動かぬままその場所に膝をついているので、もういい、もういいぞといっても、その場に軍団長はいる。
国王は言った。
「どうした軍団長、何か言いたいことがあるのなら、はっきりといえっ」
「申し訳ありませんっ、国王。オークディザスターを討伐したのは……異世界召喚者であって、異世界召喚者ではありません」
「それはどういうことだ。何を言っているのかわからん」
「異世界召喚者に……もう一人男がいたのを覚えてはいませんか?」
「男?」
国王は思い出していた。
あの男のことを。
あの禿げた頭の男のことを。
軍団長は言った。
「あのおっさんのことです。あの禿げた頭のおっさんのことです」
「あいつかっ」
「あのおっさんが……オークディザスターをひとりで討伐したようです」
「なん………だと!?」
国王は驚きの声を上げた。
ディザスター級のモンスターは一人で倒せるモンスターではない。
そんな最強のモンスターを、たった一人で倒したとでも言うのか。
国王は異世界召喚者が魔王級のモンスターを討伐したという話を聞いて、ディザスター級のモンスターを討伐したという話を聞いて、喜んでいたのだ。
だがその話を聞いて、あきれとともに、怒りが込みあがってくる。
あのおっさんが、無能ではなかったというのか。
そんなはずはない。
あの男は禿げだったはずだ。
あの男は無能だったはずだ。
軍団長があの男は無能すぎる、城から追放したほうがいいとそういっていたのだ。
国王は激怒した。
無能だと思っていたものが有能だったのなら許されることではないと、国王はそう激怒した。
「軍団長、それは本当のことか? そもそもあの男を追放したのは……軍団長があのおっさんを無能だといっていたからなのだが?」
「申し訳ありません。実はあのおっさんは有能だったようです」
「有能だっただと……わたしは有能な異世界召喚者を欲しているというのに……」
国王は軍団長の手のひら返しに憤っていたが、やがて少し怒りが落ち着いてきたようだ。
「まあよい。有能になったのなら、今から迎え入れればいい」
「サトウを城に戻すというのですか?」
「ああ。あのおっさんも高待遇でなら……この城へと喜んで戻ってきてくれるだろう。大はしゃぎで、わたしの元につかえてくれるはずだ」
「そうでしょうか」
「それで、オークディザスターを討伐したというのは……本当にあの男で間違いはないのだな? やっぱりあとで間違っていたという話では困るのでな」
「はい。確認しましたところ、間違いないかと」
「なるほど……そうか。なら一刻も早く、最強の男をこの城へと連れ戻せ。ほしいものがあるのならくれてやれ。女でも宝でも、武器でもアイテムでもなんでもやるとな。なんでもだ」
軍団長は膝を床につき、頭を伏せたままでいた。
その軍団長のひたいにはまだ冷や汗がかいてある。
「はい。お任せください」
軍団長はうなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます