第78話
「さすがにあれはやばいわね」
黒い影で見えない異形のモンスターを見て、エルマはそういった。
「もしあれがS級のモンスターなら、A級の冒険者の私でもあの異形のモンスターは倒せないかもしれない。S級のモンスターを倒すのならば、A級の冒険者が三人は必要だから」
というエルマ。
A級の冒険者でも倒せない敵がいるのか、とオレは思っていた。
だが大丈夫だ。
オレたちにはグレアがいる。
オレたちには最強のグレアがいる。
グレア一人にやつとの戦闘を任せておけば大丈夫だろう。
そしてオレだって大賢者なのだ。
大魔法使いなのだ。
「さすがにあれはやばいかもな。今回のクエストはS級になるためのクエストとはいえ、これはギルドマスターからの依頼とはいえ、諦めるしかないかもな」
というのはエレン。
「帰るしか方法はないだろう」
というのはアレクだった。
だがオレはクエストを途中で投げ出すのが嫌いだった。
オレはクエストはすべてクリアしなければ満足できないのだ。
だからオレは大賢者に聞いた。
このクエストをクリアする方法はないのか? と。
ギルドマスターから受けたこのクエストをクリアする方法はないのか? と。
大賢者は答えた。
はい。問題なくクリアできます。
と。
みんな諦めてもう帰る準備ができているというのに、帰る用意ができているというのに、この大賢者は異形のモンスターを倒すことができるといっている。
エルマもさすがに無理かも、という顔をしているというのに。
本当か?
とオレは大賢者に聞くと、大賢者は答えた。
イエス。
という大賢者。
まじか、問題ないなら倒すべきだろうか、やつを倒すべきだろうか、とオレは考えた。
オレは異形のモンスターを倒すためならばなんでもやってやる。
でもグレア以外のみんなはもう帰る気になっているし、むしろ帰らずにオレの隣にいるのはグレアだけである。
みんな帰るつもりみたいだけど、どうしようという顔をしているのはグレアだけである。
オレは帰ろうとしているエルマ、エレン、アレク、サックに向かって言った。
「みんな、諦めるな。こんなところで諦めるな。まだ敵と戦ったわけでもない。相手の力がどれほどなのかもわかっていない。オレたちはS級のパーティーになるんだ。このまま帰るなんてありえない」
というオレ。
アレクは言った。
「いや、だが、さすがにあれは無理だろ。あれ、かなりの高レベルのモンスターだぞ。そもそも影で見えなくなるモンスターってのは、レベルの高い高レベルのモンスターなんだよ。だからオレたちがA級のパーティーとはいえ、あいつを倒すのはやめておいたほうがいい。絶対にできないとは言わない。絶対に無理だとは言わない。可能性は確かにあるかもしれない。だが冒険ってのはだな、死んだらそこでおしまいなんだ。死んだらいきかえることはできないんだ。わざわざ死ぬ可能性の高いモンスターとの戦闘をする必要はない」
というアレク。
だが大賢者はいけるといっている。
主様なら倒せると、そういっている。
「オレを信じてくれ。オレは必ずやつを倒す。」
というオレ。
オレは必ず異形のものを倒す。
そう決めた。
アレク、エレン、サックがふっと笑った。
エルマは苦笑している。
サトウがそういうのなら、しょうがないわねえ、言ったからにはちゃんと責任取りなさいよ、というエルマ。
エルマは言った。
「わかったわ。ならいきましょう。ここであの異形のものを倒して、みんなでS級のパーティーになりましょう」
というエルマの言葉とともに、オレたちはボスモンスターのところまで走っていく。
と、どどどどどどどど。
という文字が後ろにありそうなくらいに、背景にありそうなくらいの文字が、圧倒的な存在感をかもしだしている異形のものの存在が判明する。
そいつは、オークディザスターだった。
オークディザスターLV97
「「オークディザスターだと!?」」
という声を上げたのはエルマ、エレン、サック、アレクの四人だった。
よほどやばい敵なのだろうか、みんながかなりオークディザスターを見て驚いているようだが、オレはオークディザスターがどれほどやばい敵かわかってはいない。
「魔王級のモンスター……」
グレアまでちょっと焦っている。
魔王級のモンスターというのは、そんなにもやばいのだろうか。
魔王よりは弱いのではないのだろうか。
魔王よりは弱いのだから、そんなに強くない相手ないのではないだろうか。
そんなふうにオレは思っていた。
「異形のモンスターの正体がわかったわね。敵はオークディザスター。つまりディザスター級のモンスター、魔王級のモンスターが相手ということよ」
というのはエルマ。
「魔王級のモンスターだと!?」
というオレ。
エルマは冷や汗をかきながら、言った。
「さすがにこれはまずいわね。敵はS級のモンスターだった。いくら私がA級の冒険者とはいえ、一人でこいつを倒せるかはわからないわ。相手が魔王級なら、あなたたちを守っている余裕はない。みんな、気を付けて。こいつは気を抜くと、一瞬で死ぬわよ、そんな相手よ」
というエルマ。
オークディザスターに近づいた瞬間、後ろにあった入り口に壁ができる。
オレたちはこのボスモンスターから逃げる方法はなくなったらしい。
どうやらこのボスモンスターを倒す以外に、ここから逃げることはできなくなった。
「お前ら、誰かを守ろうなどと思うなよ。こいつは今までの敵とは違うぞ」
というのはエレン。
魔王級が相手なら、誰かを守っている余裕などない、ということだろう。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
という雄たけびを上げて、オークディザスターはこちらに向かって襲い掛かってきた。
オレたちはお互いに距離をとり、オークディザスターの攻撃を全員が一斉に食らわないためだ、そして攻撃を仕掛けた。
オレは大魔法使いへと変身する。
「ファイアーボール!」
グレアは魔法の詠唱を始めた。
「サンダー!」
エルマは魔法の詠唱を始めた。
「サンダーボルト!」
サックは魔法の詠唱を始めた。
「ファイアーボール!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
オレの魔法攻撃。
グレアの魔法攻撃。
エルマのサンダーボルト。
サックの魔法攻撃。
アレクはこぶしで、エレンは相手の背後に回りこみ、その首の後ろをかき切る。
だがオークディザスターには全員で攻撃をしても、少ししかダメージを与えることができなかった。
このメンバーの中でダメージを与えられたのは、オレ、グレア、エルマの三人。
ほぼダメージを与えられなかった、サック、アレク、エレンの三人はオークディザスターを相手に絶望している。
だがオレは、こんな最強の相手でも、グレアなら、グレアなら一人でも、魔王級のモンスターが相手だろうと楽に倒せるのだろうと、グレアならどんな敵が相手でも余裕で倒せるのだろうと、そんなことをオレは思っていた。
オレはそんな甘い考えを持っていた。
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