第55話

 グレアは魔力操作がうまくできなかった。

 初級魔法を使っても上級魔法の威力を発揮し、上級魔法を使ってもそれ以上の魔力ですべてを破壊する。

 グレアは破壊すれば破壊するほどグレアのレベルが上がってはいくのはいいのだが、グレアのレベルが上がるほど、村にいる村人たちからは、村にいる冒険者からはグレアの評判が下がっていく。

 獣人族の評判が下がっていく。

 どうしたらいいのだろうか。

 獣人族の評判を上げていければいいのだろうけど、その方法がわからない。

 まあ活躍させればいいんだろうけど、冒険者として活躍をさせるだけで、獣人族の評判は上がるのだろうか。

 どうなのだろう。

 それだけで評判が上がるといいのだけれど。

 そんなことを考えていると、グレアは言った。

「サトウさん、あの……わたし魔法の威力が強すぎますよね……」

 というグレア。

「そうだな」

 グレアは魔法を使うと、壁を壊し、山を壊し、大地を壊す。

 すべてを破壊する。

 その魔力の威力は異常といえるくらいに高かった。

 だがオレは魔法なんて使えないし、使える魔法は光魔法だけ。

 光魔法を使って聖剣エクスカリバーを作ったり、スライムを作ったり、グレアのかわいいフィギュアを作ったり、紅蓮の炎のメンバーのかわいいフィギュアを作ったり、紅蓮の炎のメンバーのかっこいいフィギュアを作る、それくらいのことしかできない。

 それくらいしかできないオレに、グレアに教えることは何もないんだが。

 だがグレアは何かを教えてほしいというので、オレもまたグレアの力になりたくて、その期待に答えようと思った。

「そうだなグレア……魔法をうまく使うには、ランニングをすればいいんじゃないか?」

「ランニングですか?」

 オレはグレアは一緒にランニングをする。

 村の中を走る。

 グレアは人見知りだから、人間を発見すると、びっくりしていた。

「うわあ! 人間です。怖いっ」

 みたいな感じで、びっくりしていた。

 だがグレアよ、相手をよく見ろ。

 相手も同じようにびっくりしているぞ。

 そして相手のほうが怖がっているぞ。

 うわあ、獣人族だ、みたいな感じでな。

「!」

 だが獣人族を見た人間も、こんなふうにびっくりしている。

 獣人族可愛いのになあとオレは思うのだが、異世界では、この国では、この村では、獣人族を見ると、びっくりしておびえている人間が冒険者が普通のようである。

 ランニングを終えたグレアははあはあと息を乱していた。

「サトウさん、終わりました。次は何をすればいいでしょうか?」

 うーん。

 次は何をすればいいか。

 魔法が使えないオレにそんなことをきかれても、困るんだが。

 オレは言った。

「そうだな。次は筋トレをしようか」

「筋トレですか……」

「おう。腹筋とか、腕立てとか、スクワットとか、そういったメニューをこなせばいい」

 というオレ。

 筋トレはどこでもできるので、グレアはオレの目の前で筋トレを始める。

「1、2、3、4、5。はあはあ……もう限界です。筋トレがこんなにきついものだったなんて……」

 筋トレする回数を数えて五回目のところで、グレアは腕立て伏せをギブアップしていた。

 腕立て伏せが五回しかできないとはグレアもまだまだだな。

 でも限界とかいって汗を流しているところを見ると、グレアのそんな姿を見るだけで、それだけで可愛いのだが。

 なんて可愛いのだろうか。

 なんて可愛すぎるのだろうか。

 ちなみにである、オレは腕立て伏せが百回以上はできる。

 だからグレアの目の前で、腕立て伏せ百回以上するのを見せてあげた。

「…………百」

 まあオレの場合は、異世界に召喚される前から、腕立て伏せを毎日百回はやっていたからな。

 腹筋も百回毎日やっているし。

 スクワットも毎日百回やっていた。

 ランニングはさすがに毎日やるのは無理だったが……。

 会社員でそんな時間はないからな。

 休日にしかランニングなんてできないからな。

 グレアは少ししか筋トレができていないようなので、オレは偉そうにして、言った。

「グレア、お前の実力はそんなものか。筋トレをせめて三十回くらいにはできるまで成長してもらわないと困るぞ。そんなんで魔力操作ができると思うなよ」

 というオレ。

 まあオレはそんなことを言いながら、魔法なんて使えないんだが。

 光魔法しか使えないんだが。

 聖剣エクスカリバーのレプリカしか作れないんだが。

 グレアのかわいいかわいいフィギュアしか作れないのだが。

 紅蓮の炎のメンバーのかわいいフィギュアしか作れないのだが。

 だがまあそんなノリで偉そうなことを言っているだけなのだが……。

 グレアは素直だった。

 素直すぎた。

「はい! わかりました!」

 と素直に返事をするのだった。

 グレアはそれから毎日腕立て伏せをやり、腹筋を鍛え、スクワットしている。

 グレアが筋トレをする姿を見るのがオレの楽しみの一つでもあった。

 グレアがランニングをする姿を見るのがオレの楽しみの一つでもあった。

 グレアは筋トレに疲れ果て、疲れこんだように地面に倒れこむ。

「もうダメです。限界です。ううう。わたしはなんて無能なんでしょうか。筋力がたりないんでしょうか」

 というグレア。

 グレアは言った。

「でも、筋トレをするだけで、筋力を上げるだけで、レベルが3つも上がったみたいですけど」

 という地面にぐったりとたおれて、疲れ果てた様子のグレア。

「よかったな。グレア、これで魔法の操作もできるはずだ」

 というオレ。

「本当ですか!?」

 と喜んでいるグレア。

 グレアはとても嬉しそうに、オレの言葉を素直に信じていた。

 実際にグレアに今日の訓練後に魔法を使わてみると、その結果はすごいことになっていた。

 やはりランニングをやった結果が出たのだろう。

 筋トレの結果が出たのだろう。

 レベルが上がった結果が出たのだろう。

 その威力は昨日のクレアの魔力も、さらにもっと強い威力へとレベルアップしていた。

 破壊が加速していた。

 レベルあがったら、魔力も上がるもんな。

 それはそうか。

 当たり前だよな。

 破壊が加速するのは当たり前か。

 魔力の操作って難しいな。

 オレはそんなことを思いながら、だがレベルが上がって嬉しそうにしているグレアを、オレのことを信じているような目で見上げているグレアを見ていた。

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