第54話
グレアの魔法の練習をするために、遠くの場所へとテレポートしてきた。
グレアは魔法を使うとものを破壊してしまうのだ。
地下訓練場の壁を破壊して、
「あれ、またわたしなにかやっちゃいました?」
どうしましょうかこれ。
みたいな困った顔をしている。
このグレアの困った顔がまたかわいい。
壁を破壊しているのだから、可愛いとか言っている場合でもないのだけれど、この困った顔が実際に可愛いのだから困る。
サトウ、お前、獣人の女の子に甘すぎだぞ。
獣人の女の子を甘やかしすぎだぞ。
とトールに言われるのだが、可愛いものを甘やかして何が悪いのか。
というわけで、エルマを連れてテレポートを使ってこの何もない場所にやってきたわけだ。
この場所は山が遠くに見えるただの草原。
なんの魔法を使っても、何も壊れる場所はない。
風の魔法を使っても。
水の魔法を使っても。
火の魔法を使っても
雷の魔法を使っても大丈夫だろう。
壊れるものもないから大丈夫だろう。
オレはただ、草原に寝転がって、グレアが魔法を使うところを見ているだけだ。
魔法の詠唱をしているところを見ているだけだ。
グレアは風の魔法を使ったり、火の魔法を使ったり、水の魔法を使ったりして、最後には山を吹き飛ばしていた。
「…………」
やばいな。
こいつはやばいな。
獣人ってやばいな。
魔法で山を吹っ飛ばしたぞ。
そしてエルマは山が吹き飛んだのを見て、苦笑いを浮かべていた。
「グレアちゃん、すごいわね。グレアちゃんは魔法を使うと、なんというか地形が変わるのね。地形が変化するのね。そうね。すべてがなくなりそうね」
エルマは苦笑いしてそういった後、慌ててこちらに寄ってくる。
「ちょっとどうなっているのよ。獣人を仲間にしたなんて聞いていないんですけど? というか、わたしよりも魔法の才能がありそうな獣人を仲間にするってどういうことなの? もしかしてわたしたちのパーティーを捨てて、あの子と一緒にパーティーを組むとかそんな感じ?」
「いや、あの子、グレアって言うんだけど、子供たちにいじめられてたから、助けただけなんだけど」
「いじめられてたって……あの獣人が?」
「うん。あの獣人のグレアが」
「獣人をいじめるなんて……勇気がある子供もいるものね。命知らずというか」
というエルマ。
グレアはいろいろな魔法を使ってみている。
火の魔法は威力をおさえているのに、その魔法は上級魔法並みの威力だった。
「もっと威力を弱くしなさいっ。そんな魔力を使っていては、魔力がすぐになくなってしまうわっ。そして敵モンスター以外にも被害を与えてしまうわっ」
と、エルマが言っても、グレアはこう言った。
「これでも弱くしているつもりなんですけど……これ以上弱くするのは難しいんですけど……」
「…………」
無言になるエルマ。
いやー、獣人ってやべー。
何もなかった草原のはずなのに、オレとグレアがきただけで、辺りがぼこぼこになっている。
地形が変わっている。
誰かと誰かが戦闘でもしたのかというほどに、辺りがぼこぼこになっている。
すべてが吹き飛んで、岩だけが残っている。
ぼこぼこの大地だけが残っている。
だがグレアは魔法を使うごとに、グレアのレベルは上がっていく。
グレアのレベルが上がった。
グレアのレベルが上がった。
グレアのレベルが上がった。
というほどにレベルばかりが上がっていく。
魔法ってのは、使えば使うほどレベルが上がるのだろう。
いや、違うか。
この大地を消し飛ばすことで、大地にダメージを与えることで、グレアのレベルが上がっているのだろうか。
オレも大地に攻撃してみようかな。
「サトウさん、魔法って楽しいね」
というグレア。
いや、グレアさん、地形が変わっているんですが。
「魔法をぶっ放すのって、楽しい」
というグレア。
いや、グレアさん、山が吹き飛んでいるんですが。
「それはよかったな」
この辺の大地はもう来ないでくれ、獣人族はこの場所にもう二度と来ないでくれ、とそう思っているであろうことを、オレはぼこぼこになっている大地、そして吹き飛んだ山を見て思った。
やべえ。
獣人族って確かにやべえ。
可愛いからオレは問題ないけど、オレは気にしないけどこれは確かにやばいな。
「グレア、魔法を使って、疲れちゃった。お腹がすいちゃった」
というグレア。
「おう。じゃあ、帰るか。かえって飯にするか」
「グレア、今日もお子様ランチがいい」
「じゃあ帰ったらお子様ランチを食いに行こうぜ」
というオレ。
「なんというか、魔法さえ使わなければ、戦闘さえさせなければ、普通の女の子なのね」
というエルマ。
というわけで、オレたちはテレポートを使って帰ると、酒場に行くことにした。
え?
壊した大地はどうするんだって?
いや、異世界ってすげえよな。
次の日に来たら、壊した大地がもとに戻っているんだから。
吹き飛ばした山が、次の日には嘘のように元に戻っているんだから……。
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