第2話
どうやらオレたちは異世界に召喚されたらしい。
異世界召喚されたメンバーは、男子高校生数名と女子高生数名、そして幼女が一人に、おっさんが一人である。
あ、おっさんとはオレのことである。
前髪が寂しくなってきた今日この頃だ。
「勝手に人のことを異世界に召喚しておいて、魔王を倒せなきゃ家に帰れないってどういうことだよ」
と、男子高校生、見た目は不良、がちょっと苛立たしげに言った。
「そもそも魔物とやらと戦ったことのない、オレたちが魔物と戦うことがそもそもできるのか?」
と、頭のよさそうな眼鏡をかけた少年が、メガネをくいっと押して、言った。
「オレたちは平和な国で育ったごく普通の男子高校生、」
その中にただ一人おっさんがいるのはどうなのだろうか。
「ごく普通の男子高校生、」
眼鏡の少年はオレと幼女のことを見て、
「いや、おっさん……となぜか小さな女の子もいるようだが……やはり戦闘になれていないオレたちが……魔物と、しかも魔王と戦えるとはとても思えない……」
眼鏡をかけた少年はまるですべてを見透かしているかのように、そういった。
まあそうかもしれない。
漫画やアニメだったら、勇者というのはすごい素質を持っていて、魔物なんて簡単に倒し、レベルも簡単に上がり、魔王のしもべなんてやつらもものの見事に倒してしまうだろう。
だが現実はそんなにうまく行くのだろうか。
おっさんになってみると、異世界にいったほうがよっぽど面白い生活ができるのではないだろうか、なんて妄想をしないでもないが、現実に異世界にいってみると、異世界で育毛剤を買うことはできるのだろうかだとか、異世界でうまいこと生活していくことができるのだろうかだとか、魔物に食われやしないかだとか、そんなことを考えてしまう。
まあ目の前にいる高校生なんかは、受験勉強だとか、なぜかライブにいけないだとか、彼女とのデートはどうするんだとか、そんなことを心配しているようだが……。
幼女はといえば、お母さんに会えないことを心配しているようだった。
と、国王自体もまたこの成り行きを想定していたのだろうか。
まさかそんなことをやるとは思ってはいなかったが、王様はどん! と大理石の床に頭を押し付けると、こんなことを言ったのだった。
「この世界を救うのは、勇者様方、あなたたちにしかできないことなのです」
周りにいる兵士や、魔法使いたちが王様が顔を上げるように言うが、だがどうしてか王様は大理石の床から顔を上げなかった。
男子高校生、女子高校生は王様の土下座を見て、なんだか考えを改めているようだが……それでいいのだろうか。
土下座をすれば、魔物と戦ってくれるだろうと、魔王とだって戦ってくれるだろうと、彼はそう思って、王様は土下座しているだけなような気がするのだが……。
だが彼ら、彼女たちには王様の考えが見抜けなかったのだろう。
魔王を倒すことを決意したのか、魔物に苦しめられている人々の姿を想像でもしたのか、不良の男子高校生は馬鹿な面を下げて、こう言った。
「ったく、しゃあねーな。……ま、家に帰る方法は……魔王を倒してからでも考えればいいか」
クラスのアイドルみたいに可愛い少女もまた、うなずいて、言った。
「そうね! 異世界の人々が魔物に苦しめられているんだもん! 勇者であるあたしたちがみんなを助けなくて、だれがこの世界の人たちを救うのよ!」
やれやれ、とあきれているのは眼鏡をかけた男子高校生。
彼はやれやれと首を横に振ってから、言った。
「そんな安易に乗せられてしまうのは心配ですが……まあ仕方がありませんね。ここは少しの間は、乗せられてやるとしましょう。何もせずにこのまま異世界にいても……何も進展することはなさそうですし……」
そんなんでいいのだろうか?
高校生というのは、この異世界に順応しすぎではないだろうか。
この異世界に順応できていないのは、この幼女と、おうちに帰りたい、とそういっている、それとオレくらいのものである。
幼女はおうちに帰りたいとかわいらしい理由だが、オレはといえば、くっそ。
せめて育毛剤を持ってくるんだった。
くっそ。
この少なくなってきた髪が、これ以上なくなったらどうするんだよ。
王様よ。あんた。
責任とれるのか。
と、王様のことを見たのは、おそらくこの異世界召喚者の中で、勇者の中で、オレだけではないだろうか。
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