第8話 アンダンテ・コーダ・チェロ 「恋と厨二」 

「なぜ僕の告白予定現場に君たちがいるんだ」


 僕が放課後にハナちゃんを呼び出したら、ハナちゃん周囲の友人3人が一緒についてきた。


「ハナはみんなのアイドルだから、滅多な男には近付かせないの」

 取り巻きその1がそう言った。泣きぼくろがある。まあまあ美人だ。


「ホントはあんたなんかの告白はパスだけど、ハナがそれは気の毒だって言うから恩赦よ」

 取り巻きその2は茶髪ギャル風でそこそこ美人だ。


「さあ、やってみなさい。あなたの告白、判定してあげますわ」

 取り巻きその3は長身猫目で結構な美人だ。



「ゴメンね、たくさんついてきてしまって。ダメだって言ったんだけど…」

 こう言ったのがハナちゃん、僕の意中の女性。とびきり可愛い。丸顔童顔ウルウルの瞳声優ボイスバラ色の頬ショートカット清楚可憐いい匂い。


 つまり取り巻き3人も美人なんだけど、ハナちゃんには敵わない。優しくて可愛いハナちゃんは僕のクラスのマドンナなのだ。



 女子からも絶大な人気のハナちゃんには取り巻きギャルズがいて、こいつらが告白しようとする男子を軒並み撃墜していると聞く。

 僕がハナちゃんに告白して、そのハートを射止めようとするなら、こいつらは乗り越えなくてはならない壁なのだ。


 野球部エースも撃墜された。生徒会長も一撃で振られた。あのチャラ男は問題にもならず、マッチョも番長もガリ勉も全部、ハナちゃん前の告白戦場は死屍累々だ。

 だが、やるぞ僕は。



「いいんだ、ハナちゃん。わざわざ体育館の裏にまで来てくれてありがとう。僕の気持ちをきいてほしい」



 泣きぼくろがフンと鼻を鳴らす。

「まずその深めに被っているパーカーのフードを外しなさいよ。顔が見えないでしょうが」


 僕はそれを片手を上げ、断った。

「フフフ、悪いな。自分のオーラを漏れさせないためにも邪眼を隠している必要があるんだ。わかってくれ」


 3人のギャルズが身じろぎをする。

「こいつは…」「厨二?」「ヤバ…」


 早くも僕を怖れおののく取り巻きギャル達。


「ハナちゃん、このカセットテープをまず君に送るよ。君の面影をイメージして僕がセンスのいい曲をチョイスした。僕の気持ちがよくわかるはずだ」


 またしてもギャルズが震える。

「カ、カセットテープ」「自分チョイス曲集」「ヤバ過ぎ…」


 羨ましいのはわかるが君たちの分はないよ。


「それから、そのアルバムの最後は僕が自作したオリジナル曲『花のような君へ』が入っている。僕の歌声も聴いてくれ」


「オリジナル曲」「自作自演」「ヤバ×ヤバ…」


 また後で君たちにも聴かせてやるからそうひがむな。


「これがその曲の歌詞カードだ」


 ハナちゃんにノートの1ページを破ったものを渡す。

 ハナちゃんは震える手で受け取った。


「ハナ、自作の詩に手が震える(笑)」

「ノート破ったのを告白で渡す」

「激ヤバ…」


「ちょっと見せて見せて」「私も私も」「うっ、下手な字」


 女子4人が僕の詩をのぞき込んでいる。ちょっとくすぐったいなあ。



======================



 花のような君へ


 


 きょうの君はどうしてるのかな


 アンドロメダの彼方にいるのかな


 それとも異世界の妖精なのかな



 bring me love  I want your nose


 dance with the devil good work


 

 大好きだよ  世界一の仮面舞踏会


 僕の剣は巨人のものだから


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 ギャルズが肩を震わせている。感動してるらしい。茶髪が首を傾げる。

「ププッ、な、何でいきなりアンドロメダなんだ」


 猫目が答えた。

「彼の知っている最もロマンチックな言葉なのでは」


 今度は泣きぼくろが笑う。

「いきなり異世界が出てきたぞ。ウププ」


 また猫目が解説する。

「こういうタイプの男子は異世界が好きなんです。妖精と言われましても、プフフ」


 茶髪も同意した。

「ブーッ、まあ、エルフとかドワーフとか出てこなかっただけ、自制したってことじゃない」


 好きなことを言っているな。褒めるのもいい加減にしてほしいものだ。ちなみに2番の歌詞にはエルフも登場させているけどね。


 泣きぼくろと茶髪が英語部分をかわるがわる質問し、猫目が答える。


「ぶ、bring me loveってなんだ」


「直訳すると『愛をもってこい』ですが」


「ププププッ。I want your nose…お前の鼻をよこせってどういうこと?」


「プッ、たぶん翻訳ソフトか何かで、ハナを訳しちゃった結果と思われ」


「ハヒハヒ、何で急に悪魔と踊ることになったんだ」


「グ、ぐるじい。ハアハア、good work…どういう意味?」


「フーフー。ハヘハヘ。意味不明ですが…慣用句的には『お疲れ様』っていう意味で使われますね」


「ギャハハハハハ。お前がお疲れ様だよ!」


 盛り上がってるな。僕の作る歌詞は世界を動かすとは思っていたけど、照れちゃうぜ。


 また泣きぼくろが眉間にしわを作る。

「仮面舞踏会はいつ始まったんだよ」


 猫目が微笑む。

「最初から最後までとにかく一貫したテーマがないですね」


 笑いを堪えて茶髪が言う。

「というより、本気でハナを口説く気あるのかね、この男は?」


 泣きぼくろが泣きそうな顔で付け加

「最後の僕の剣は巨人って…下ネタ?」


 三人とも爆笑である。 

「ギョホホホホ、もう訳わかんない。ヒーッヒーッ」





 そろそろいい頃合いだろうか。

 他の3人が笑いながら歌詞を眺めている傍らでハナちゃんは下を向いて肩を震わせている。

 僕は背後からギターを取り出した。泣きぼくろが驚きの表情を浮かべた。


「お前は何を始める気なの?」


「当然、僕の気持ちを歌にして捧げるつもりだ」


 ハナちゃん含めて4人はたじろいだ。

「いやいやいや」「やめといた方がいいよ」「すでに結果は出てますし」



 僕はギターに手をそえた。だが、まだ練習したこともないので何となく持ってるだけだ。まあ、ムードの問題だよね。持ってるだけでもミュージシャンぽいし。


「では、本日最後の曲です」


 ギャルズが思わず吹き出す。

「どういうこと?」「たぶんコンサートのつもりで格好いい感じに」「超絶ヤバ…」



 僕はギターに手を添えただけで、オリジナル曲『花のような君へ』を歌い出す。


「エアギターキターーっ!」「歌も中途半端に下手」「悶絶ヤバ…」


 僕は心をこめて歌ったさ。




「♪僕の剣は巨人のものだから ものだから ものだから I wanna your hart」



 ギャルズが何故か腕や胸を掻きむしっている。


「何、その最後のフレーズ」「ハートの綴り違う」「変態的にヤバ…」


 僕は長い息をついて、ハナちゃんをジッと見る。ハナちゃんは下を向いている。


「ハナちゃん、好きだ。好きだ。大好きだ。僕の彼女にしてあげるからYESっていってくれ」



 ギャルズはもう大騒ぎ。


「これで上手くいくと思っているところがスゲエ」と泣きぼくろ。


「彼女にしてあげるって…どうして上から」と茶髪


「これは突き抜けたヤバさ…」と猫目



 ハナちゃんが顔を上げた。眼には何故か涙がこぼれている。

「すごいわ。私、感動したの」


 泣きぼくろ「ハナ?どうした?何言ってんの?」


 ギャル「どういうこと?ハナ、気を確かに!」


 猫目「ハナがホントに異世界の妖精に見えます…」


「私、こんな素敵なラブソング初めてだわ。もっと聴かせてほしいって思ったの」


 ハナちゃんが僕をじっと見る。当然僕はハナちゃんにハンカチを差し出したさ。


「僕のフェアリー、君の涙は美しいけど、やっぱり笑っていてほしいな」


 ギャルズがまた腕や胸を掻きむしる。





 ハナちゃんはその日の放課後から僕の彼女になった。ギャルズは教室で口々に言いあった。


「知らなかったよ。ハナがあんな変わり者だったとは」


「あんなのと付き合って、不幸にならないといいんだけど」


「何かよく知らないのですが、自分は『フ』なんだとか」


「不幸のフとか」


「フェアリーのフ?…ってこと?」


「もしかして、あいつホントにあのフードの下にすごい力が?」


「フードのフ…?」


「馬鹿馬鹿しい。バカと言えばハナは純情だから、ああいうストレートな馬鹿に参っちゃったのかも」


「実は変わり者同士ってことでいいのかもしれません」


「ま、ハナを悲しませたら、あの厨二はリンチだけどね」




 それから三人は窓の外を見る。そこで僕とハナちゃんが今日の放課後も一緒に手をつないで下校するのを見つけたさ。



「どうする?ハナがフードを目深にかぶってんだけど…」

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