第4話 僕の心は彼女のものだし カップ麺は彼女のだし 「恋とカップ麺」

 カップ麺をめっちゃ美味しく作る方法がある、と彼女は言った。

 僕はそう断言する彼女の丸顔が可愛くて笑ってしまう。


 彼女は少し頬を膨らませて僕をにらんだ。その頬にナルトの模様が見えたような気がした。



「でも僕はこう言っては何だけどカップ麺歴20年だ。君が僕よりおいしい食べ方を知っているとは思えないね」


 彼女はナルトの頬をさらに一回り膨らませ、僕のアパートの台所を一瞥いちべつしてから言う。


「では私が作ったカップ麺を食べて美味しかったら、何でも言うことを聞いてくれる?」


 そんな彼女が可愛くて可愛くて僕はにやけながら頷いた。



「いいだろうさ。食べさせてくれよ」




 彼女はニコリと微笑んで台所の戸棚から一個のカップ麺を取り出した。

 僕の部屋のカップ麺がどこに何個あるのか知っているかのような自然な動きだ。


 それから湯沸かしに水を入れ、スイッチを押す。



「この間に私は水着になるの」


「えっ」


 僕は彼女の言葉を聞き間違えたのかと目をみはるが彼女は言ったとおり、服を脱ぎ始めた。



「ちょっと、ちょっと」


「どうかした?」


「なぜ僕がカップ麺を食べるのに君が服を脱ぎ始めるの?」


 彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「大丈夫。下に水着を着ているわ」


「いや、そういう問題ではなく」


「私の水着は嫌いなの?」



 僕は動揺してダイニングの椅子を蹴飛ばし、うろたえた声を出す。


「いや大好きだ。大好きだけど」




 そんなり取りの間にお湯が沸き、彼女も水着になった。



「本当に水着だ。しかもオレンジ色のビキニだ」



 彼女はそれに答えず微笑みながらカップ麺の蓋を開け、半分だけお湯を注いだ。



「ねえ、それはずいぶんお湯が少なくない?」


「一杯にしたら、熱くて入れないじゃない」



 彼女の答えはさらに意味不明で困惑するが、僕はとりあえず椅子を元に戻した。


 彼女は半分お湯が入ったカップに水を足した。




「あの、それでは生煮えにならないかい?」


「大丈夫。10分待ってもらうから」


「それもおかしいと思う」




 そしてオレンジ色のビキニをまとった彼女はおもむろにカップ麺のふちに座り、足をつける。



「えっ?」



 僕が驚く間もなく、彼女はカップの中に入って全身を湯に浸した。



「なかなかいい湯加減だわ」



 言葉もなく僕はカップ麺とその中に入った彼女を眺める。

 スープの中でチャーシューを枕にゆったりと過ごす彼女とは対照的に僕は落ち着かない。

 オレンジビキニの彼女と揺蕩たゆたう麺の組み合わせは刺激的だけど、この展開に僕の感情はとてもついていけない。





「そろそろ10分ね」



 そう言って彼女がカップから体を出した。ほんのりとピンク色の肌からかすかに湯気があがっている。

 僕は彼女が大好きだ。香りはチキンスープだが。



「さあ、食べてみて」




 湯がぬるかったせいか麺は硬く、スープ自体はもともとのカップ麺だ。


 ナルトの頬の彼女が僕を可愛く睨む。


「どうなの?味は?美味しかったら何でも言うことを聞いてくれるのよね」



 僕はしどろもどろで答える。それしか答えようがないじゃないか。



「…何でも言ってください」

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