電脳世界野球大戦

Unknown

電脳世界野球大戦

「きゃー、Unknownさーん!」

「Unknownさん、ホームラン打って!」

「Unknownさんかっこいい!」

「Unknownさん、私と結婚してー!」

「ねぇUnknown、私を早く受精させて!」


 俺のファンからの黄色い声援が鳴り止まない。

 バッターボックスに立っている俺は、投手との勝負に集中するために、タイムを取り、スタンドの女性ファン達に向かってこう言った。


「うるせえ! この試合が終わったら、1人1人受精させてやるから黙っとけ!」


 すると、ファン達は一斉にキャーキャー言った。

 その様子を見ていた敵チームのキャッチャーは、苦笑いして俺にこう言った。


「やれやれ、お前も大変だな。受精を迫る女性ファンがいるなんて」

「まぁな。俺ほどのスター選手にもなれば当たり前だよ」

「自分で言うのか……」

「ははは。冗談だよ」

「避妊はしろよ?」

「当たり前だろ。おい、次はなんだ? 外に逃げるスライダーか? それとも内を抉るストレートか?」

「ふっ、秘密だ」

「まぁいい。なんでも来い。俺は来た球を打つだけだ」


 俺が静かにバットを構えると、投手はワインドアップの姿勢を取り、全力でボールを放った。

 俺はストレートに狙いを絞りつつ、遅い変化球にも対応できるように意識していた。

 奇しくも、俺の狙い通りにストレートが来た。しかも、「打ってください」と言わんばかりの甘いゾーンである。

 俺はバットをトップの位置に移動させ、ステップを取り、全力でバットを振り抜いた。

 すると、木製バットの「カン!」という甲高い音がスタジアム中に響き渡り、一瞬の静寂の後、スタンドのファン達の大歓声が聞こえた。

 試合は、0対0で迎えた9回の裏。

 俺のサヨナラホームランで、この試合に勝利した。

 俺は笑顔でダイヤモンドを一周し、チームメイト達に手荒く祝福された。


 ◆


「──よし、何とかプエルトリコに勝てたな……」


 実家の薄暗い部屋の中、ゲーミングチェアに座る俺は、パソコンのモニターから視線を逸らし、タバコに火をつけて、大きく息を吐いた。

 タバコの煙がモクモクと部屋に漂う。

 ちなみに、このプエルトリコとの試合に負けていたら、日本は滅亡していた。防衛戦に何とか勝利を収めた。


 俺は『第5次電脳世界大戦』における『日本代表』のキャプテン、Unknownである。


 西暦4527年現在、戦争は全て電脳世界で行われるようになった。遠い昔の地球では、核兵器や戦闘機を駆使した、流血や痛みを伴う古典的な戦争が行われていたらしいが、本当にそんな時代があったのか疑わしい。

 現在の世界では、『人権』や『魂』や『命』や『記憶』は全て一つの電脳空間に統合され、保存されている。

 戦争や革命に血は流されなくなった。

 代わりに“電脳野球”が雌雄を決する時代になったのだ。

 さっき俺達『日本』は『プエルトリコ』を撃破した。つまり全てのプエルトリコ人のデータは巨大な地球のサーバーから削除される。


「ふぅ」


 俺は無表情でタバコの煙を吐き出す。


「──俺はこんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ。せめて童貞捨てるまでは絶対に負けられねぇ」


 日本の命運を背負わされている俺は、26歳の童貞だった。

 電脳野球選手として働く俺は、高校を中退して以来、完全に実家に引きこもるようになり、寝食を除く全ての時間を電脳野球に費やしてきた。

 電脳野球選手としての俺の年俸は18億だが、単純にこの実家から全く外に出ないため、女性関係は皆無であった。

 だが、ネットの世界ではモテモテだ。

 さっそく、俺の女性ファンからダイレクトメールが届いた。

 俺はパソコンのマウスをカチカチして、メールを開いた。


『Unknownさん大好き! 日本を守ってくれてありがとう! 超かっこよかったです! 私を早く受精させて!!!!!』


 そのメールに対して、俺はタバコの煙を吐きながら、無表情でこう返信した。


『俺の立派すぎるバットですぐ妊娠させてあげるね。デュフフフフフフフフフフフフフフ』


 そう返信した直後、俺は死んだ顔で呟いた。


「あーあ、彼女欲しいな」


 ◆


『もしもし。Unknown君か?』


 彼女が欲しいと願いつつ部屋でぼーっとしていると、佐藤首相(31)から直接俺の脳内に電話がかかってきた。

 俺はすぐに出る。


「はい、Unknownです」

『日本を守ってくれてありがとう。日本国民を代表し、感謝の意を表す』

「あ、はい」

『防衛省からの通達だ。どうもアメリカが不穏な動きを見せているらしい』

「プエルトリコの次はアメリカですか」

『ああ。そういうことだ。次のアメリカ戦も頼んだぞ。全ての日本国民の命がその手に懸かっている」

「分かりました。必ず日本は俺が守ります」

『頼んだ』


 そこで電話はあっさり切れた。

 ちなみに、アメリカ合衆国は電脳野球世界ランキング1位の超強豪軍団である。


「参ったなぁ。アメリカに勝てなかったら、童貞のまま死ぬことになる。ちゅーする事もなく、おっぱいを揉む事も吸う事もなく、俺は死んでしまう……。そんなのは絶対に嫌だ!!!!! せめて1発やってから死にてえ」


 俺がそう言うと、俺の後ろから、こんな声がした。


「お兄ちゃん、うるさい。眠いから黙ってて」

「あ、わりぃ」


 俺が振り返ると、俺の部屋のソファーで24歳の妹がスマホをいじりつつ寝っ転がっていた。

 ちなみに妹の紗希も高校を中退して以降、ずっと引きこもりである。

 正直言って、俺の妹の顔はめちゃくちゃ可愛いが、社交不安障害や精神病のせいでまともな社会経験が無い。

 ここ最近はVtuberみたいな、いわゆるネットアイドルとして活動して金を稼いでいるらしい。なぜかここ最近、俺の部屋に居ることが多い。


「なぁ紗希」

「なに?」

「なんでここ最近、俺の部屋によく居るんだ?」

「悪い?」

「いや別に」

「お兄ちゃんが日本を背負って戦ってくれてるから、応援したいと思ってそばにいる」

「あ、そうなんだ。ありがとう」

「うん」


 ◆


 その直後、俺はネット上の女友達にこんなラインを送った。


『彼女が欲しすぎる。おっぱいを揉みたすぎる。おっぱいを吸いたすぎる。ちゅーしたい。うんち食べたい。おしりの穴を舐めたい。ゲロを飲みたい。血を飲みたい。おりもの食べたい。思いきりビンタされたい。抱きしめたい。首を絞めたい。タコみたいに絡み合いたい。手を繋いで街を歩きたい。2人の思い出をたくさん作りたい』


 返信は無かった。


 ◆


 数日後、首相の言った通り、アメリカは日本に戦争を仕掛けてきた。


 色々あって日本はアメリカに勝利した!


 そして俺は彼女ができた!






 〜ハッピーエンド〜






【あとがき】


 書くのがめんどくさくなったから適当に終わらせた。

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電脳世界野球大戦 Unknown @unknown_saigo

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