第20話 遭遇
*水花*
部屋を出て、河原の方へと移動していく。
「この辺り……かな?」
手元のスマートフォンで開いた事件記事の画像と、目の前の風景を見比べる。そっくりだが、微妙に、どこか違うような気もする。
「いやあっちじゃね?」
ザクロが指差す方向をみる。
「あー、あっちか」
だいぶ距離があったが、視力は良いので問題なく見える。黄色いテープに囲まれて、中に何人かの警察官がいた。外側には、報道陣らしき人影や、ただただ見物している一般人も見える。
川の風景というのは、似たように見える箇所が多いから困る。しかし、あの集団に不用意に近づき、カメラに映るのもリスクはリスクだ。結果的に離れた場所から確認できて、良かったかもしれない。
「に、しても。びっくりだね」
転校したばかりの学校が、明日は普通の状態から離れて、少し穏やかではなくなることが予想された。普通に過ごしたいのに、困ったものだ。
身元不明で、被害者がどこの誰かということまでは書いていないので、もしも同じ学校だとしたら、大騒ぎだろう。
「あんまりびっくりした風じゃないけどな」
「あはは、バレた」
昨日、この件に参加している同業者の顔を見た時から、なんとなく予想されることではあった。
「で、ここまできて何するわけ?」
「待つ」
そう言って、しっしとザクロを払う動作をする。
しかし、ピンとこなかったようで、ザクロは首をかしげてきた。
「1人の方が都合が良いと思うから、どこか遠くから見ててくれる?」
「あー、了解」
さっと一瞬でその場を離れていく。適当な木の上に身を隠したようだった。日も落ち、こちらを誰も見ていない状況とはいえ、警戒心の薄いことだ。
あたしはもう一度だけ、遠くに見える事件現場に目をやってから、歩き始めた。いつまで歩いていればいいかは分からない。不自然に見えるのは良くないから、一応、住宅街の方を目指す感じで行こう。
方針を決めて、歩き続ける。なるべく人気のないところを多く通り、進んでいく。現場から離れすぎたと感じたところで、人通りの多いところを目指し、人混みに紛れて方向転換。そうして、また事件現場の方向に足取りを変えて、歩き出す。
一見無意味な往復。けれど、確固たる目的のある行動だ。
ザクロはあたしが1人の方が都合が良い、と伝えた部分を意識して、気配を殺し、潜んでいる。近くに隠れていると分かっていなければ、あたしだって分からないような、上手な潜伏。
夜の闇が深くなっていき、辺りは人気がますますなくなってくる。もういい加減、この釣りを諦めて、自宅に帰ってシャワーでも浴びようか、と考え始めたときだった。
「ん」
遠目に見知った後ろ姿が見えた。そっちはお呼びじゃなかったのに、と深くため息をつく。あたしと同じように考えて、この場所にいるのだろうか。
そう考えた思考を、その背中のさらに奥にいた人物が狂わす。
その瞬間、あたしは考える前に駆け出していた。
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