第23話、スライムの方がお上品ですう!!!!

 チェックで合格し、報酬金をたんまり頂いた。


「むふ、むふふふふっ」


 お金の入った袋を軽く振れば、中でお金が良い音を鳴らす。

 ちょっとした金持ちじゃん。笑いが止まらん。


 貯金が貯まっていく感覚というのは、なんでこんなにも愉快なのか。

 ていうか、これギャル系スキルで 無双 できるじゃん???

 ニヤリと笑い、翌日から俺は調子にのって依頼を受けまくった。



「おらぁ!!特定炎上うううう!!!!」

「特定炎上!!!!」

「特定いいい、えんじょおおおおおう!!!!」



 ドカドカと雑魚を狩っていく。

 楽しい!思ってたよりも楽しいぞ雑魚狩り!!これは癖になりそうだ!!


「はぐっ。 ふむぅー」


 お弁当で持ってきた饅頭に似たお菓子を頬張る。

 腰掛けているのは先程倒したイタチオオガメという、肉食獣の背中に甲羅のようなものがあるモンスターの死骸だ。毛が鎧のようになっているらしい。


 そのモンスターもいつも通りの特定炎上で仕留めたので外傷無しで気絶している。

 あとは口の中に自作した麻酔を流し込めば完了だ。


 ペロリと饅頭を平らげ、麻酔注入した後に取り込む。


「うーん。なんか作業みたいになってきてるし、飽きてきたなぁ」


 別に苦戦したいとは言ってないが、如何せん刺激が足りない。

 ならば、戦い方を変えてみるしかない。

 ちょうどまだ仕留めてない獲物も、使いこなせてないスキルもあるのだ。

 ほどほどに練習してみるのも良いだろう。


「というわけでぇー、見つけましたバークフロッグ!」


 目の前に居るのはバークフロッグという、頭が蛙のオオトカゲだ。

 こいつは大変な大食いで、畑の野菜や果実、家畜なんかを食べ荒らしている。

 なんでもかんでも大きな舌で捕まえて一呑みなんだと。

 あれあれ?もしかしてスライムの親類??とワクワクしながら様子見をしていたんだけど。

 前言撤回!!!!


「食べ方が汚いなぁ!」


 蛙のような舌で巻き取って食べるのはまだ良い。

 その後口を開いての咀嚼により、食べかすを辺りに散らかして飲み込むのを見てドン引いた。

 食べ方が全然美しくないし、何より食べ物に敬意が感じられない。

 やはり食べ方に関してはスライムが最高な種族だ。

 食べ残しもなく、余すことなく全てを綺麗に平らげて活用する。

 敬意しかない。


「こんなのと一緒にされたくなーい」


 俺ならもっとお上品に食べるもん!!!

 というわけで、存分に実験台にしてやることにした。


 とりゃあ!とバークフロッグの前に躍り出る。

 突然現れた俺という存在にバークフロッグが一気に警戒体勢を取ったが、全然怖くない。


「喰らえ!!!付け睫ブラックダウン!!!!」


 俺の後ろの空間に巨大な目玉のないバシバシに長い付け睫が現れた。

 その見た目はまるで空が付け睫で盛っているかのようだ。

 いや俺もなに言っているのか分からないが、そう言う以外に良い例えがない。

 バークフロッグが空に現れたソレに怯えているが、本番はこれからだ。


 付け睫がバークフロッグを見つけ、ゆっくりと見えない目蓋を下げていく。

 うぉんと不思議な音を立てながら、空が墨で塗り潰していくように黒くなっていく。

 墨を引き伸ばしているのは巨大な付け睫だ。

 あっという間に空は『黒』になった。


 一切の光が通らない真っ黒空間で、バークフロッグが逃げようと暴れだした。

 俺は相手の姿が見えるけど、向こうは一切合切容赦無しの『黒』しか見えないもんね。

 気持ちは分かる。だけど、逃がさないよ。

 続きましては第二弾!!!!


「ラメシャットアウト!!!!」


 俺の周囲から光の粒が発生し、それがバークフロッグへと襲い掛かる。

 グロロロロロと変な声をあげながら光の粒を払おうとしているけれど、あまりにも遅くて意味がない。

 あっという間にバークフロッグの頭に取り付くと、一斉に弾けた。

 バークフロッグの視界はずっと目の前で花火をされているようにキラキラに包まれて前が見えなくなっているだろう。しかもこのスキルは平衡感覚も狂わせるらしく、バークフロッグの体が酔っぱらいみたいにフラフラし始めた。


「ふん!他愛もないな!次でトドメだ!!」


 カッコつけて爪を強調するポーズを決めた。

 桃色にたくさんキラキラ装飾をデコった爪だ。可愛いだろう!!


「ネイルアートクラッシュ!!!」


 叫びながら手を振ると爪が光輝いてピンクの弾丸が発射され、バークフロッグを撃ち抜いた。

 銃ほどの威力は無いだろうが、パチンコで速度を増した玉がたくさん襲い掛かったくらいには仰け反り、そのまま仰向けに倒れた。


 手を銃に見立てて、ふっと息を吹き掛けた。

 気分はカーボウイ。


「アバヨ、蛙ちゃん!」





 依頼達成。

 完全に気絶しているバークフロッグをいつも通りに丸飲みした。

 ただ今回は大きいから提出するのが大変そうだ。

 そういえば大きい獲物は指定された部位だけで良いんだっけ?


 ポケットから依頼書の写しと、手作りの言葉の日本語翻訳表を取り出して見比べながら確認してみた。

 それによると、確認方法の一つに“バークフロッグの舌”とあった。

 ということは、舌以外は食べても良いってことか。

 ラッキー。


 体内でバークフロッグを解体して仕訳している間、俺はファイルの残量の確認をしていた。


「やっぱり減ってる」


 最近気付いたことだけど、スキルを使うとファイルのなかにあるものが減っていき、必要な数以下になると使用不可になる。

 戻すには食べて数を確保するしかない。

 俺が使うのはもっぱら鉱石系だ。

 それもあまり数のない美味しいやつが結構消費される。


「特定炎上使いすぎたからなぁー。マジ失敗だったわ」


 流石は一撃必殺スキル。

 一回使う毎にごっそり持っていかれる。それに気が付いたのも残り残数二回の時だ。

 慌てて森の地面に潜り込んで食べまくったけど、ここらには該当鉱石が少ないのかそこまで残数は増えなかった。

 現在の残数は15回程。

 余裕はあるけど、使いすぎ厳禁だ。


 それに、と、俺が住処にしている川の現況を思い出す。


 穴ぼこだらけにしてしまった。

 海底も大分深くしてしまったし、このままだと生態系に影響を及ぼす。

 もう及ぼしている。

 何せ、魚の種類が変化してしまっていた。

 これはいけない。

 俺の食欲やスキルの補填の為に環境破壊は良くない。


「そろそろ潮時だろうなぁ」


 たしかモンゴルの民だって、草の為に移動すると聞いたことがある。

 なら俺も生態系の為に移動しなくては。






 バークフロッグの舌を提出して報酬を貰った。

 今回は大人しく貯金することにした。

 顔を覚えられた露店のおばちゃんにお菓子で誘惑されたけど泣く泣く我慢した。

 我慢して一個だけ買った。

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