第22話、魔法ってすげえええ!!!!
奮発して甘いものたくさん食べて満足した俺は、始めて街で宿を取った。
本当は森で寝るはずだったんだけど、いつもの門番の人に泣きながら止められたのだ。
曰く、これ以上は心配すぎて心臓が爆発すると。
意味がわからなかったけど、そんなことで死なれても困るので仕方なく諦めたのだ。
宿のベッドに横になる。
「…………土の中とたいして変わらないなー」
スライムだからだろうか。
いまいちベッド最高!!とはならなかった。
とはいえ懐かしいシチュエーションだったので、そのまま寝ることにした。
昨日残しておいた甘味を咀嚼しながらギルドへと向かう。
ギルドに足を踏み入れれば、あちこちから俺に対してコソコソと話しているのが聞こえてくる。
ちゃんとは聞こえないけど、やっぱり八百長が疑われているっぽい。
まぁ、わからなくはない。
だって俺、ギャルだし。
「おはよーごぜーます!」
「おはようございます。依頼達成の確認ですね、少々お待ちください」
しばらく待っていると、いつもとは違う職員が出てきた。
筋骨隆々で、制服が狭そう。というか、あまり似合っていない。
ギルド職員というよりも、冒険者や狩人、もしくは大工職人がしっくりくる風貌の男だった。
しかし手には剣ではなく、ファイルらしきものが抱えられている。
その職員はにっこり笑って挨拶をしてきた。
「お待たせいたしました。私が完了確認を担当させていただきますレイゴです」
「ラムスでーす」
「それでは、行きましょうか」
「はーい」
見た目に反して丁寧な口調。
なんとなく警戒しなくても良いかなーと思いながら、俺はレイゴさんの後に着いていった。
森に入ってからは案内を交代し、ザブザブと川を渡ろうとしたところで驚いた職員に止められた。
「ちょっと!ラムスさん!?お待ちください!」
「へ?なんですか??」
「この川は結構な深さと流れがありますが、まさかそのまま泳いで渡る気ですか??」
「?? そうですけど? …………あ」
そこで気が付いた。
そうだ。普通の人間は呼吸をしているんだった。
あっぶねぇー!俺が人間じゃないってバレる。
どうしようどうしよう。とりあえず取り繕わないと。
「えーと、…えーと、そのー…、レイゴさんはもしかして泳げない的な?」
違うだろ!?
テンパりすぎて意味のわからない質問をしてどうする!??
「…そうではありませんが、今は書類を持っておりますので」
「あはは、ですよねー!」
誤魔化し笑いをしながら川から上がる。
大丈夫かな。
バレてないかな??
ドキドキしながらも言葉を続けた。
「でも困りましたねー!ヤク…ホビラット達は向こう岸の方に住んでいたから、この川渡らないと辿り着けないっていうかー…」
「確かにそうです。……ふむ、近場に橋に出来そうなものも無さそうですね…」
どうするんだろ。
渡れる幅になるくらい上流へ歩くんだろうか。
そう思ってたら、レイゴさんが懐から菜箸程の長さの木の棒と小さな本を取り出した。
「魔法を掛けますので、じっとしておいてください」
杖が本を叩き、そのままこちらを指す。
「付属、《水上歩行》」
足元が青く光る。
「ほわー!光った!」
「これで歩けますよ」
「やったあーーー!!!」
やってみたかった水の上を歩く夢が叶う。
後ろから「え、ちょっと!?」という声さえも聞こえずに川へと駆け出す。
勢いよく水へと飛び乗ると、ボヨヨンと変な弾力でもって弾き飛ばされた。
トランポリン??
まぁいいか。どうせ倒れても沈まないんだし。
「その魔法は足しか浮かびません!!!転ぶと普通に沈みますよ!!」
そういう大事なことは早く言ってくれ。
「うおっ、とととと!!」
何とか着地成功し、初っぱな大失敗という事態は回避できた。
そんな俺を追い掛けてレイゴさんがやってきた。
俺とは違って、実に安定した歩みだ。
「魔法にはメリットがありますが、デメリットもありますのできちんと説明を聞いてから使用してください」
「はーい」
気を付けよう。
俺は反省できるヤツだ。
忘れなければな。
まるで水風船の表面のような、もしくは水の上にピンと張った分厚いゴムの膜を踏んでいるような、そんな不思議な感覚を味わいながら渡っていく。
「これどのくらい持つんですか?」
「だいたい5分から10分です。日とによっては30分持たせる方もいますが、そのレベルは非常に稀ですね。達人レベルになると、水の感覚も地面と大差無くなるそうです」
「へー、すごーい」
これはこれで面白いけどな。
そんな雑談をしながら渡り切り、森の中へと進んでいった。
ちゃんと移動しているか確認する。
もちろんヤクジシ検索だ。
「……うん」
誰も居ない。
跡形もない。
ヤクジシ達が移動するために草や果実を収穫した形跡はあるけれど、それだけだ。
「ふむ。確かに居なくなってますね。隠れているわけもなさそうです」
何かの魔法を発動しているのか、辺りをキョロキョロするレイゴの目の前に片眼鏡みたいなものが出現している。
なんだろう、あれ。
観察している内に片眼鏡は消えた。
「確認完了です。戻りましょうか」
「はーい」
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