第9話、名前決めるの忘れてた!!!!

 俺の読みは見事に当たり、ギルドらしいところへと辿り着けた。

 ギルドの壁面には石で出来た銅像がたくさん並んでおり、こっちを威嚇している。


「カッコいいなー。あの石のなんだっけ?ガーなんとか」


 思い出せなかった。

 いつか思い出せるだろう。


 開きっぱなしの扉から中に入ると、たくさんの冒険者達で溢れ返っていた。

 あるものは掲示板を見ており、あるものは受付で何かを話しており、あるものは机を挟んで大喧嘩していた。

 ああ、良いな。

 冒険者ギルドって感じがする。


 せっかくだし俺も登録したいな。

 受付は何処だろう。


 何せ俺はここの文字が読めないし常識もない。

 周りの人達の動きを見て、あるカウンターがそれっぽいと目星をつけて行ってみる。


「こんちゃーす」

「こんにちは。どのようなご用ですか?」


 優しそうな女の人に当たった。

 やったぜ。


「冒険者の登録とか、ここでしてますか?」

「できますよ。登録されますか?」

「したいです! あ…」


 そういえばと俺は考えを巡らせた。

 こういうギルドでは、登録でお金が掛かる場合もあったはずだ。

 どうしよう。

 俺いま一文無しだ。


「どうされましたか?」

「あのー…、お金とかは…?」

「大丈夫ですよ。審査と登録にはお金は掛かりません。その代わりに受けたクエストからの報酬から二割ずつ引かせて頂きます。もちろん審査と登録代が支払い終えたと判断された場合、差し引きは終了です」

「ほうほうほう」


 なるほど、それなら安心だ。


「ではお願いします!」


 出来るならばやっておこう。

 やって損は無いだろう。


「それでは準備いたします」

「はーい」




 しばらくして、書類と変な機械がカウンターに置かれた。

 多分、この紙は契約書だろう。

 こういう場で、たくさん文字が書いてあるのは契約書と相場が決まっている。

 しかし隣のやつはなんだろう。

 分かるのは台座に嵌め込まれた銀の輪っかと透明な石。

 しかもわりと乱雑にカットされたやつだ。


「それではこちらを読んでからサインをお願いします」


 おっと初っぱなから詰んだ。


「あの、文字が読めなくて…」

「あっ、そうなのですか。では読み上げます」

「あざまっす!」


 良かった。

 ここで「ぷーくすくす。こんなのも読めないの?ざっこーw」とか下げずまれたら泣く自信があった。


 お姉さんがスラスラと読み上げてくれた内容としては、簡単に要約すると。


「冒険者はとっても危ない仕事がたくさんありますが、その代わりたくさん稼げます。危ない仕事では死ぬことがありますが、それについてはギルドは一切責任無いので恨まないでくださいね。分かった人はサインをしてね!」


 という事だった。

 その他にも色々書いてたけど、忘れた。


「それではサインを致しますのでお名前をお願いいたします」

「あい。えー、名前は……、あ」


 あかん!!!

 名前決めてなかった!!!

 え、どうしよう!!!


 元の名前も思い出そうとするも思い出せない。

 とするなら、名前を今此処で即決めなければならない。

 なんで大事なことなのに忘れていたのか!!!

 このおバカ!!!


 数秒にも満たない時間、俺は頭をフル回転させた。


 噛まないで言え、覚えやすく、それでいて俺を示すのにちょうど良い単語───。


「ラムスで」


 スライムの単語を入れ換えた。

 安直だけど、俺が覚えやすい。

 イはどっか飛んでいった。


「ラムスですね」


 さらりとお姉さんが名前を書いてくれた。

 その文字を凝視する。

 これ練習しないといけないな。

 さすがにね、名前くらいは書けないとね。


「それでは体内魔力を測りますので、ここに手を置いてください」


 機械の石を示されたので手を置いた。

 ここで魔法が使えるのかを測るのか。

 しかしやっぱり魔法が出てくるなんて、ワクワクが止まらない。


 さぁ、どうなる??


「ん?あれ??」

「?」


 なんだかお姉さんの様子が変だ。


「へ、変ですねぇ。普通はすぐに反応して測定してくれるのですが…」

「故障ですか?」

「…そんなわけ無いのですが…、おかしいですねぇ、すべての人種に反応するはずなのですが…」


 …………あ。

 しまった俺スライムだった。


 あわてて手を引く。


「すみませんが、もう一度手を…」

「あー!大丈夫です!大丈夫です!良く考えたら文字読めないから魔法の勉強とか嫌いでした!」


 我ながらどんな誤魔化しだこれ。

 詠唱しないタイプの魔法が主力だったらどうするよ。

 だらだら冷や汗流していると、お姉さんは「そうですか…」と引いてくれた。

 助かった。


「これで審査、手続き完了となります。こちらをどうぞ」


 カウンターに銀色の物体を置かれた。


 ネックレスのようだけど、飾り部分がプレートだ。

 そこに模様が彫られている。


「なんです?」

「これは冒険者の登録が済んだ証、認識タグです。この色と模様が階級となっておりまして、下から順に


 玉鋼級(フェルム)、

 素銅級(クプルム)、

 白銀級(アルジェンティ)、

 黄金級(アウルム)


 となります」

「へぇー」


 一目で分かるのは良いな。


「次に冒険者の階級の特徴の説明です」


 カウンターに大きめの紙が置かれた。

 そこには俺のタグに書かれた模様や、違う模様がいくつも並んでいる。


「このフェルムはいわゆる見習いです。命に危険の少ない仕事や、採掘活動、雑用などがメインの仕事です。子供が多いですね。


 次のクプルムは初級冒険者です。

 荷物持ちや比較的脅威度が低い魔物の討伐、駆除、護衛などがメインの仕事です。

 ここでどこかのグループに所属したり、弟子入りしたりして技術を学びます。

 ここで命を落とす人も結構いるので気を付けてください。


 その次がアルジェンティ。中級冒険者です。ここからは制限が外れ、比較的自由になります。依頼内容も多様化し、集団で高脅威度の魔物の討伐を行ったりします。

 一番数が多いですが、毎月数が変動します。理由は様々ですが、行方不明になる方が多いです。


 うちで取り扱う依頼の多くが以上のフェルム、クプルム、アルジェンティのものです。ここまでで質問はありますか?」

「……いえ?」


 質問以前に覚えることが多すぎてそんな余裕がない。


「では続けますね」


 早くも俺はめげそうです。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る