第8話、なんでお前が此処にある!!??

 頃合いを見て、馬車から飛び降り隙間に逃げ込んだ。

 侵入成功である。


(ほぁー。思ったよりも人がいる…)


 老若男女職業様々な人達が歩き回っている。

 うん。ザ、ファンタジーの姿だ。


(街人、街人、商人? お?あれは…)


 腰に剣をぶら下げた人間がいる。

 あちらは大きなハンマー。

 双方とも街人とは違って、鎧みたいなのを身に付けている。

 兵士とかではない。

 門にいた兵士とはどう見たって装備が違う。

 なら、考えられるものはただひとつ。


(あれは、冒険者という奴だ!!!!)


 何ということだ。

 俺は典型的なファンタジーの世界に送られたらしい。

 だのに、その世界観を真っ向からぶち壊すギャル(俺)はまさしく異端な存在だろう。

 間違いなく異端者尋問、魔女狩りに遭ってしまう。

 かといってスライムのままでいるのも良くないだろう。

 何せここは冒険者が多い。

 俺を見付けるや、[モンスターが現れた。]と叫ばれて戦闘が始まってしまう。


 まぁ、俺なんか経験値1くらいしかなさそうだけど。


 とにかく、良い案が見付かるまでは大人しくしていた方が良さそうだ。










(わぶっ!)


 こそこそ移動していると、顔面に大きな布が被さった。


(なんだなんだ?? …カーテン?)


 それは大きな大きな布だった。

 初めはカーテンかと思ったけど、上の方に洗濯物が干されているのを見付けた。

 マントかこれ。


(…ラッキー)


 ボンとギャル化してマントを羽織る。

 これで一見すればただの女子だ。










「うぇーい!お嬢ちゃんお茶しねえ???」

「エッヘッヘッヘ、大人しくしてれば恐いことはねぇからよぉー」


 典型的なナンパにあった。

 ナンパにしてはやや脅迫気味だけど。


 女子は大変だな。

 こんな変なイベントが否応なしにやって来るなんて。

 現在地は裏路地の角に追い詰められている。

 人が少ないからと裏路地歩いてたのが良くなかったらしい。


 下品な笑みを浮かべる男二人に俺は指差し言ってやった。


「ははは、ウケるー」


 付き合ってられん。


 マントを取り込みがてらスライム化。

 そしてそのまま全力で転がって股下を通過し物陰へと逃げ込んだ。


「うおっ!消えた!??」

「なんだ!?魔法か??」


 男二人は突然俺が消えたのに驚いたようだ。

 そのままそこでいつまでも探し回ってろ。




 少し距離を取ったところでギャル化して、マントを背中から出して装着した。

 あんな変な奴に絡まれるのなら、普通に表から行った方がいいなこれ。




 表通りは賑やかだ。

 その人混みに紛れて歩き回っていれば、お店が並ぶ通りに出た。


 しかし、見事にスライムだとバレなかったな。

 バレなくて良いんだけど、これは幸先が良いぞ。


「お?あれはー、道具屋かな?」


 文字は分からないが、瓶やハンマーの絵の看板を見付けて駆け寄った。

 窓から覗けばまさに道具屋で、工具、椅子にタンスなどの家具や、細々とした物が売られていた。


 その隣はお茶……薬屋?らしき店。

 正直、瓶詰めされた液体や干された草だけを見て判断するのは難しい。

 看板を見ると葉っぱの絵。

 分からん。

 香辛料屋さんなのかもしれない。


 その次は肉屋。

 とても分かりやすくて嬉しくなった。


 そしてその次は恐らく武器屋だ。

 扉の上に堂々と剣が飾られていた。


「わぁー。やっば。ちょーテンション上がる」


 武器はロマンだ。

 すでに俺は一つ持っているけど、それはそれとして武器は見てて楽しい。


「鎧も売ってるのかぁ」


 せっかくだしウィンドウショッピングでもするか。





「らっしゃい!」


 来店すると力強い挨拶が飛んできた。


「こんちゃーす」

「あ?なんだよ女かよ…」


 舌打ちされた。

 なんだよなんか文句あんのかよ。

 ネイルパンチ食らわすぞ。

 恐らく「なんだよ女かよ。こりゃ絶対に買わねえな、ちっ」だな。

 正解だよ、はっはっはっ!


 気が向けばそのうち買うよ。

 ……スライムに必要なのかな?


(それにしても色々あるな。このピアスとか指輪とか何に使うんだこれ。…!?)


 信じられないものを見た。

 なんでこんなところにスマホがあるんだ。


 アクセサリー類のすぐ隣に、無造作に置かれた見覚えのあるそれに俺は飛びついた。


 間違いなくスマホだ。

 しかもご丁寧にケース付き。


 俺は店員の方を向いてスマホを指差した。


「こ、こここここれは、スマホですか?」


 は?と店員は怪訝そうな顔を向けてきた。


「それは黒い軽石だよ。ガラクタさ」

「軽石?」


 にしては普通にスマホにしか見えない。

 もしや起動しないのか。

 充電切れ?


 思わず上がったテンションが平常に戻ってくる。

 使えないなら意味ないな。


「!」


 スマホのすぐ近くに充電器があった。

 おまけにソーラーパネル付きだ。


「いくらですかこれ」

「そのごみを買うのか。物好きか」


 今度は変なものを見る目付きをされた。

 確かにこれらは知らないものからすればゴミだろうさ。


「3ブロンズだ」


 いくらなんだろうか。


「お金ためて買いますので、よろしく」

「お前3ブロンズも持ってないのか、まじで何しに来たんだよ」


 多分、反応を見るに駄菓子とか買える値段なんだろうな。


「稼いできまーす!」


 とりあえず大きく宣言してから店を出た。

 さて、どうやって稼げば良いのだろう。

 大抵のファンタジーならば、ここでギルドなんかがあったりするが。


「やっぱりこのクエショボすぎんだろ。小遣いにもならん」

「だよなぁー。やっぱり危険だけど、狩るのが手っ取り早いよな」


 目の前を冒険者風の男二人がそう喋りながら通りすぎていった。


「クエ?クエスト?」


 クエストといえば、ギルド!!

 ここにはギルドがある!!!


 すぐさま近くの冒険者の後ろを追いかけた。

 これできっとギルドに辿り着けるはずだ!!!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る