第2話、思ってた異世界生活と違う!!!!
どぽん、と、水に投げ込まれたような感覚で目が覚めた。
(はっ)
だけど目の前に広がるのは黒一色。
(ん?あれ?)
なんか変だぞとモゾモゾ体を動かしてみても、分かるのは体が波打つ感覚だけ。
(……うそだろ……?)
そこでようやく俺は理解した。
スライムは目がない。
だから周りの景色が見えない。
スライムは手足がない。
だから体を動かしてみても体を、いや、形を確認することができない。
思わず青ざめた。
青ざめる血液もないのかも知れないけど。
(待って、これすごいこわい!!!)
目を開けてもなにしても黒一色は変わらないし、叫び声を上げようにも口がないから悲鳴も上げられない。
唯一分かるのは、落ちている、ということ。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、こんな意味の分からないまま死にたくない)
バラバラになりそうな衝撃が全身を襲い、グルグルと乱回転させられ、もう終わったと思った次の瞬間解放された。
(……生きてる?)
ビクビクしながら身構えていると、ファサ、と優しい感触が全身を包んだ。
布団のような、撫でられているような、何なのかは分からないけれど俺は慌ててそれにしがみついた。
[草]
(?)
突然頭の中に、草、とイメージが出た。
なにが?
[苔、藻]
(…………)
しばらく考え、ふと理解した。
もしかして俺がしがみついているこれは草なのか。
いや、だとしてもだいぶ大きい。
幅もあるし、丈もある。
そう思っていると、なんだかお腹が空いてきた。
草は食べれるものだろう。
サラダは嫌いだけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
抱き付く位置を調整しながら齧ってみる。
いや、齧るって表現もおかしいけど。
一部を体に取り込んでみる。
(……?? なんか、違うな)
草の一部が体の中に留まってる。
お腹は満たされない。
言うなれば、食べ物を口にいれて放置している感じ。
食べ物を購入して手に持っている状態といっても良い。
食べれてないなこれ。
(どうやって噛むんだ?ていうか食べ方とか間違った?)
しばらくモゴモゴしていると、突然草がトロンと蕩けてきてほどけて体に馴染んだ。
(……なるほど?)
一度出来たなら次はもう少しスムーズに出来そうだ。
ちょびっと齧って体の中で溶かして飲み込む。
さっきよりもコツがつかめた。
なんだか段々楽しくなってきて、俺は飽きるまで近くの草らしきものを溶かして飲み込んでいった。
(ふぅー、満たされた)
お腹一杯ではないが、こう、楽しかったみたいな満足感がある。
さっきまでいた場所は草が少なくなったので、地面を這いながら移動したのだ。
なんだかこの世界は風が強いみたいで、手を離すと吹っ飛ばされそうになる。
今も風のせいで体が激しく波だっている。
恐ろしい世界に転生させられてしまった。
早く変身使えるようになりたいが。
(そういえばどうやって確認するんだ?変身!!!って叫んで力いれたら出来るか? 変身!!!)
やってみたが、特に変わらなかった。
違うんだろうな。
今のは多分、専用ベルトとかいるタイプの変身だ。
暇なので地面の草ではない“苔”を齧っていると、唐突に閃いた。
ステータス画面みたいなのとか無いんだろうか?
もしくは設定ボタン的なやつ!
異世界あるあるなの!!!
ぬぬぬぬぬっ!と念じていると、ヒュボッ!と変な音がして目の前に文字列が現れた。
(よっしゃあ!!!出たあああ!!!)
嬉しさに小躍りしようとして、体が浮き掛けたので慌てて地面にしがみついた。
さて、なにが記載されているのか。
種族
粘体生命体(スライム)
幼体
食べたもの
[草][苔]
基本スキル
[補食][分解][吸収]
特殊スキル
[変身](条件を満たしていません)
当たり前のことだった。
俺でも知ってる。
(はぁーーー、暇)
食べることしか暇潰しができない。
草も苔も飽きてきた。
何せ味がないのだ。
例えるなら、ずっとプチプチ潰している気分。
短時間だと楽しいけど、長いことやってたら飽きる。
でもこれ以外にやること無いのでやってる感じ。
草も段々減ってきて、これ以上やると飛ばされる気もする。
地面に寝転がって苔が無くなった岩を撫でてみた。
[岩]
頭の中に出てくる文字。
知ってるよ岩くらい。
逆に岩じゃなかったら怖いだろう。
ずーっとさわさわ撫でていると、小さい突起を見つけた。
なんとなくそれを体に入れてみる。
ジュワ。
(!!?)
岩が溶けた。
全部じゃなくて、表面が軽くだけど。
それでも草より溶かしがいがあるものが見付かって俺は一気にテンションが上がった。
がばりと突起に覆い被さって齧った。
なかなかの硬度だ。
堅焼き煎餅のすごい固いやつを相手にしている様だ。
無我夢中で頑張っていると、突起は全部溶けて体に広がっていった。
楽しい。
(おりゃ!おりゃ!おりゃりゃりゃ!!!)
せやせや!と岩の中でも柔そうな場所を狙って溶かしていく。
一心不乱に砂を掘る犬をバカにしてたけど、今なら理解できる。
穴を掘るのって楽しい!!!
よいせよいせと掘り進めていると、感触の違うものに突き当たった。
スベスベで、なんとも触り心地の良い石だった。
(感触だけならガラスみたい)
[???石]
頭の中に文字が出てきた。
しかしいつものとは少し違う。
なんだ?と首を傾けていると、文字がざらついて違う文字になった。
[ガラス石]
(ガラス石か)
へぇー、きっと透明なんだろうなと思いながら、ガラス石を齧った。
(!!?)
食べてみて驚いた。
結構な固さなのに、体の中に入れたとたんに蕩けたのだ。
(うわ!チョコじゃん!)
面白い感触の石をぺろりと平らげた。
(美味しかったな)
いつもは楽しいなのに、今回は美味しいと感じた。
味がないのに不思議だ。
もっと無いかなと溶かし進め、なんとなく無さそうだと感じて引き返す。
(別のところ掘るか)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます