第3話、スライムだって頑張ってる!!!!!
そんな感じでそこら一体を掘り返しながらガラス石を見付け次第モグモグしていると、ふわり、と不穏な風が体を揺らした。
(…………、見られてる)
視線が突き刺さってくるのが分かる。
でも、一体“何の”?
ゆっくりとソレを意識する。
最近、この体に慣れてきたからか、ほんの少しなら周りの状況が分かるようになってきていた。
強風のなか、斜め上にこちらを見ている生き物がいる。
大きい生き物だ。
風なんか敵でもないのだろう。
ゆっくりと角度を変えながら、俺を観察していた。
なんで忘れていたんだろう。
俺以外の生き物の存在を。
(ど、どどどどうしよう。とりあえず隠れなきゃ)
とにかく自分が掘った穴にでも隠れようと思ったのだが、次の掘る場所を探していたからさっきの穴まで距離があるのに気が付いた。
こんなことなら横穴を掘る方にしておけばよかった。
しかも更に思い出したのだが、俺の体色はドピンクだった。
派手派手で、隠密行動なんかできやしない注目の的になる色だ。
なんで今まで見付からなかったのか不思議だったが、もしや、調子に乗って草を食べまくっていたから見付かってしまったのだろう。
(ああああああ、やっちまったああああ)
激しい後悔に見舞われるが、後の祭り。
(あ)
ヒュッ!と凄い吸引力でそいつに体を吸われた。
(ふぬううううううううッッッッッ!!!!!!!)
全力で岩へしがみついた。
このまま終わってなるものか!!!!
俺はまだ草と苔と岩とガラスしか食べてないんだァァァァ!!!!!!
心からの叫びを上げながら頑張ったが、やはり矮小生物、力で敵う筈もなかった。
プチプチと儚い音を立てて体が岩から引き剥がされ、遂に残っていた部位も剥がされた。
(終わった)
と思ったが、同時に(スライム舐めんな!!!!)という怒りや意地が沸き上がった。
どうせ喰われるならこっちだって喰ってやろうと思ったのだ。
体が宙に浮いた瞬間に意識を岩から反対方向へと向け、目の前の生物に向かって体を思い切り広げて食らい付いた。
[魚]
(!?)
生物の体半分を覆った瞬間に出てきた文字に驚いた。
魚だって?
うそだろ?この世界だと魚は空を飛ぶのか!?
(……いや、違うか)
ずっと俺は水の中にいた、そういうことだ。
魚が激しく暴れまわる。
多分俺が外れないようにエラに腕を突っ込んでいるからだろう。
どうにかして俺を振りほどこうと魚が岩に向かって体当たりを繰り出すが、ここで負けたら終わりだと必死に耐えた。
そうしているうちに魚はぐったりと動かなくなった。
(勝った?)
しばらく魚の様子を見ていたが、動く様子はない。
地面にゆっくりと落ち、風、いや、水流で流され始めた。
(俺、魚に勝った)
スライムの体での初勝利に感激しながら、折角仕留めたご飯だしと、魚を飲み込んで溶かしていく。
ジワジワと体が満たされる。
(はぁー、サイコー。……は?)
ぼんやりと光が見えた。
その光はどんどん鮮明になり、明暗が、そして、色彩が理解できるようになってきた。
(!!!??)
突然見えるようになった。
(え、えええええええええええ!!!!!)
ステータスを確認したら、獲得スキルというのに[光感知能力]というのがあった。
多分、目のことだろう。
実際に目があるのかは分からないが、見える。
ここは川底だった。
藻や海藻がぎっしり生えた澄んだ川だ。
そんな川で、明らかに海藻がごっそり消え、岩が穴だらけになった場所がある。
俺の生活圏だった。
(……あんなに岩が剥き出しになってたら、そりゃ見付かるよな)
当たり前である。
視力を獲得して手探りじゃなくなった俺は、隠れながらもあちこちを見に行った。
(あー…………、あそこから落ちたのか……)
そして、俺が誕生した際に軽く殺され掛けた場所も分かった。
滝だった。
俺はあの滝の上付近で生まれて、そのまま流されて落ちたんだろう。
(怖かったなぁ)
今でも思い出せばぶるりとする。
ふくわばらくわばらと思いながら、俺はガラス石を探すために繁った海藻密集地、新しい住処へと向かった。
泳げるようになった。
(……やれば出来るな)
体をできるだけ平たくして、丸くして、平たくしてを繰り返す。
すると、まるでクラゲのように揺蕩う事が出来るようにはなった。
もっとも、水の流れが強すぎて吹っ飛ばされるからめったにやらないけど。
それでも出来ることが増えて嬉しい。
体も少し体積が増えたみたいで、力も強くなっていた。
もっともその代わりに空腹が酷くなってきていたけど。
(草だけじゃ足りなくなってきたんだよな)
岩も食べまくって、川底の地下では俺の開けた横穴で迷宮のようになっている。
今はそこに小魚や蟹が住み着くようになり、それを俺が袋小路に追い込んで食べている。
貴重な肉だ。
味はないけど、肉を食べているってだけでも嬉しい。
そんな感じで川底を住処にしてしばらくしての事だった。
事件が起きた。
(うおおおおおお!!!???)
大量の魚が川下から現れた。
ビュンビュンと頭上を巨大な魚が通過する。
その数、視界に入るだけで百匹は軽くいる。
その魚たちはみんな一様に滝を目指しており、その際に見付かった小魚や蟹が補食されていっていた。
もちろん目立つ俺も例外ではない。
(ぎゃあああ!!!こっちくんなあああ!!!)
必死に逃げる俺目掛けて尻尾で殴り飛ばし、それを別の魚が大口を開けて襲ってきた。
(ふんっ!!!!)
体を広げて魚を捕らえる。
舐めんなよ!俺だって魚くらい倒せるんだ!!
暴れる魚を押さえ付けながら大人しくなるのを待っていると、視界の端で飛んでもないものが迫ってくるのが見えた。
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