当惑④
「凜……お前どうしたんだよ」
「そうだよ、無理しないで、寝てないと」
幸太郎と七海の言葉に、凜はゆっくりと被りを振った、
「そんわわけにはいかないのです」
「え?」
「お兄ちゃんたちが色々やっている間、私は今までの自分を顧みたのです。たくさんの人を傷つけて私はこれから生きて行っていいのだろうかと……死んで詫びるべきなんだろうと
凜は顔を上げた。その瞳には確かな光がともっていた。
「でも、そうじゃないのです。私は奪ったからには責任があるです。彼らの分まで私は後悔せずに生きなければいけない……そして、それは罪を償うことです」
凜がはっきりと幸太郎を見据えた。
「お兄ちゃんは、凜のためにケガレモノを救うと言ってくれたです」
「…・・・聞いてたのか」
「はいです。私の罪を償うといってくれたです。それなのに、とうの凜がこのまま寝ているだけなんて絶対にあっていけないことです。凜がするべきことはそれだと確信してるです」
妹の想いは、幸太郎の心は揺さぶられた。
それは、強さだった。
自分の身に置き換えてみればそれがわかった。
もし自身が知らない間に人を殺めていて、それを突きつけられたとしたらどうか。その罪の意識を乗り越えて希望を持つことが出来るだろうか。
正直自信がない。
何をしていても、過去の過ちに苛まれて、世界は常に色を失っていくだろう。
しかし、目の前の自分の妹はどうだろう。
罪に向き合い、そして為すべきことを成す決意をした。
それは強さでなくて何だというのか。
幸太郎にとって、それは誇りだった。
「でも……いいのか?」
「はい?」
「危険なことだ。凜はもう、今までみたいに不死身ではない。深い傷を追えば命を落とす」
「そんなの、覚悟の上です。お兄ちゃんは無駄が多いです」
「ぐ」
「ですです」
「分かった……だが、そうはいってもお前には武器がない」
「それならば、これがあるです」
凜が先ほどから後ろ手に持っていた何かを掲げた。
ちりん。
それは聞き覚えのある音だった。
「それは」
「はいです……あの村の長だった剛毅さんの武器です」
凜が刀身に視線を落とした。
自身が殺めた相手の武器を使うということは、常人であれば忌避することだろう。
しかし、それと向き合い、己のなすべき最善と尽くすという決意は、とても神々しく見えた。
「私は、これを使って戦うです」
「わかった。だが、危なくなったら……」
「何を言ってるですか。私はお兄ちゃんよりも実戦経験豊富でなおかつ剣道では敵なしだった女です。むしろお兄ちゃんは自分の心配をするです」
「ったく、その自信家ぶりは相変わらずだな」
兄妹で話をつけたと思ったら、横から慌てたように七海が割り込んできた、
「ちょっとまってよ、二人で何でも決めないで、私も行く!」
「それはだめだ」
「だめです」
「なんでよ!」
「大丈夫だ……」
「え?」
「俺は死なない」
そういって、幸太郎と凜は部屋を出ていった。
一人残された七海は、ただ床を見つめ、最後に残された言葉の意味を考えていた。
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