当惑③
くれはを再びベッドの横たえて、幸太郎は七海と対峙していた。
「七海、さっきのはどういうつもりだよ」
「どういうつもりって?」
「くれはに、どうしてあんなこと言ったんだ」
「あんなこと?」
落ち着いていた七海が再びヒートアップする。
「じゃあ、実際どうなのさ。こうちゃんの腕を切り落としたのはくれはさんなの?」
迷った挙句幸太郎は、
「……そうだ」
「……やっぱり」
その答えを得て、七海は悲しそうに目を伏せた。
「どうして黙っていたの?」
「……別に七海を騙そうとしていたわけじゃあない。あの村に言った時俺すごい楽しかったんだよ」
「……え?」
「すっごく楽しくて、それでくれはが急に現れてその楽しい気分が終わっちゃうのが嫌で、言えなかった。その後は色々あって言うタイミングが無くなっちゃったんだ……本当に、ごめん」
「そう……なんだ」
いくらか溜飲が下がったのか、七海の声音は和らいでいた。
震えながらも、たどたどしくも七海が言葉を続けていった。
「私ね……悲しかったんだよ。こうちゃんと一緒で、私もあの村の生活がすごく楽しかった。それに、くれはさんと一緒に作業もしてて、くれはさんの真面目で、でもちょっと抜けているところとかすごく好きだった」
七海の表情が沈んだ。
「だから、くれはさんがさっき死にに行くようなことを言ってすごく悲しかったんだ。私に嘘をついたまま死んじゃうんじゃないかって。私はくれはさんの事が好きなのに、くれはさんはそうじゃなかったんだって。本当のことを言わないままでいいんだって思われたことが嫌だったんだよ」
「……七海」
七海は顔を天井に向けるようにして、必死に涙をこらえていた。
そんな彼女を幸太郎は、改めて強いと思った。
思えば以前の幸太郎も同じだった。
自身ですべて立ちまわったつもりで七海に心配をかけてばかりだった。
それを必死に支えようと七海は自身のできる全てを掛けてくれた。
今はくれはに対して。
そんな幼馴染のいじらしさを知って、幸太郎は今まで隠そうとしていた自分を恥じた。
そして、言った。
「ななみ、ありがとうな」
突然のお礼に七海は面喰ったようだった。
「なんでこうちゃんがお礼を言うんだよう」
「まあ、なんとなく」
「なんとなくって、もう……」
不意に訪れたいつものやりとりに、幸太郎は思いがけず胸が熱くなった。
その熱が意味するものは分からなかったが、それでも幸太郎はわかっていることがあった。
「今回は、俺だけで行く」
「え?」
「俺が義之さんを止めに行く」
「そんな……それじゃあ意味ないよあたしも行くよ」
「それはだめだ」
「こうちゃんひとりじゃ無理だよ。だって、くれはさんの武器だって持ってるんだよ」
「なんとかなるさ」
「そんなの私が認めないよ」
再び応酬がはじまってしまい、幸太郎は内心頭を抱えた。
以前呉羽を助けに行くときすら時間がかかったのに、今回の件ではどれだけ時間があったとしても七海を納得させる自信がなかった。
どう説得したもんかと幸太郎が考えていると、不意にドアがノックされた。
「誰だ?」
まったく心当たりがない状態でいると、やがてドアが開けられた。
そこには凜が立っていた。
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