当惑②
「七海?」
「ねえ、こうちゃん…私ずっと気になってたの……くれはさんと、こうちゃんとの関係」
「お前……今はそんなこと言ってる状況じゃ」
「そうじゃない」
七海が珍しく語気を荒げた。
そこの込められていたのは怒りであるし、哀しみでもあった。
「ずっとずっと、こうちゃんとくれはさんはどこかで会ったことがあるって思ってた。冗談めかして何度も聞こうとしたけど、こうちゃんあずっと教えてくれなくて……胸の中でもやもやしたものがたまってた。でも……さっきの話でわかった」
七海がくれはに向き直った。
「こうちゃんの腕を斬ったのは……くれはさんだったんだね」
「……っ!」
くれはが目を瞠った。
「さっきのクサナギノツルギの話……何でも断ち切るっていう話……そして、こうちゃんが腕を無くしたときに、女の人を見なかったかってっていう話。二人の接点……それはつまり、あの時の女の人がくれはさんってことだよね」
問い詰められてくれはは思わず目を伏せた。幸太郎の約束を覚えていたのか、それを認めることはなかったが、その反応は肯定しているのも同然だった。
「七海、お前……」
「こうちゃんには聞いてない」
ぴしゃりと切り捨てられて幸太郎はそれ以上何も言えなくなった。
七海が再びくれはに詰め寄る。
「ねえ、もう誤魔化さなくていいよ……くれはさんがやったんだよね」
七海のひとみがくれはを射貫く。
それは懇願だった。
しかし、それでもくれはは認めようとしなかった。
痛いくらいの沈黙が辺りを包んだ。
「そっか……じゃあ、もうどっちでもいいよ。でもねその代わり、もうこれ以上こうちゃんを巻き込まないで」
「お、おい七海」
「なに?くれはさんは関係ないんだよね。じゃあ、本当にこうちゃんはくれはさんの事が好きなの?そういう関係で、私に今まで黙ってたってこと?」
「それは……違うけど」
「ほら」
「でも、さっきも言ったけど今はそんなこと気にしてる場合じゃないだろ」
「場合じゃなくない!私にとってはすごく重要なことなんだよ」
「……すまない」
くれはが、割って入るように口を開いた。
「私のせいで……君たちが喧嘩をする必要はないんだ。七海さんの言うとおりにする、もう私はここにはこない。君たちにも関わらない」
「お、おいくれは」
「そもそもこれは私の血筋の問題だ……君たち抜きでもやり切るつもりだ」
「つっても、お前一人でどうするつもりだよ。怪我だってしてるしクサナギノツルギだって奪われてるんだから」
その問いにはくれはは答えず、部屋を出ていこうとして、唐突に崩れ落ちた。
「くれは!」
幸太郎が覗きこむとくれはが苦し気に顔を歪め、額には脂汗が浮かんでいた。
荒い呼吸を繰り返して、くれはは再び気を失ってしまった。
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