闇討ち③

 義之に指定された場所に幸太郎がたどり着くと、そこには倒れ伏したくれはの姿があった。

「くれは!」

 幸太郎がくれはに駆け寄ろうとすると、

「おっと」

 いつの間にか義之が幸太郎の目の前にいて、行く手を阻んだ。

「義之さん、どうしてこんなこと」

「それはこの場では関係ないことだよ。今重要なのは君が約束を守ったかどうかだ」

「……わかった」

 幸太郎は懐から、ヤタノカガミのかけらを取り出した。

 それを見て義之は満足そうな表情になった。

「素晴らしい」

「これを渡せば、くれはを返してくれるんだな」

「ああ、もちろんさ……でも先にそれを渡してくれるかな」

 手を差し出してきた義之の手の上でゆっくりと幸太郎の手が開かれて、かけらが義之にわたった。

「……さあ、約束を守った……くれはを解放しろ」

 しかし、義之は挑発するように笑った。

「まあ、そこまで焦らなくても約束は守るさ……ところで僕はさっきの質問に答えていなかったよね」

 頭に血が上った幸太郎はそれが何の事なのか一瞬分からなかった。

 そんな幸太郎を見て、義之が続けた。

「僕はね……この神器をずっと探していたんだよ」

「何?」

 それは思いもよらない言葉だった。

「それは、何のために?」

 幸太郎の問いに、義之は余裕腐った表情になった。

 そんな義之に幸太郎は詰め寄った。

「くれはを巻き込んでまで、どうしてそんなことをしたんだ!」

「決まってるだろう」

 義之は笑った。

「僕は、この世界の神になるんだ」

「な……」

 幸太郎は思わず言葉を失った。

 神になるだと?

 そんなのもはや冗談にすらならない。

 中学生か、あるいは酒の席の大人ですらかくやというくらいバカげた話だ。

 だが目の前の義之の真剣な声音からは、それが一切の韜晦や諧謔を含んだものではないと理解できた。

「約束だ。くれあはさんは返してあげるよ」

 義之は乱暴にくれはを幸太郎に向かってを放った。

「くれは!」

 幸太郎が駆け寄る。

 くれははぐったりとしてはいたが、確かに息はしていた。

 彼女が生きていることに安堵しながら、幸太郎は義之を睨みつけた。

 その視線を気にも留めず、義之は踵を返した。

「義之!」

 幸太郎の言葉を無視する義之の前の空間が波打った。

 義之がその空間に足を踏み入れた。

 やがて一瞥すら残さず、義之は空間の向こうに消えていった。

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