闇討ち①
幸太郎と別れた後、くれはは自宅への道を歩いていた。
くれはの脳裏によぎるのは、幸太郎の恩師と呼ばれる人物の不審な反応だった。
腰元に携えた刀剣について、何か訳知りの様子だった。
「......そんなはずはない」
これは門外不出であり、素性も国家元首のものしか知る由はない。
そう考えながら、ある一つの懸念がくれはの中で渦巻いていた。
「いや、まさかな」
勤めて言葉にしてみても、くれはの中の疑念は膨らむばかりだった。
仮に、もし仮に、あれを知っている人間が国家元首の一族以外で知っているものがいるのなら。
「......ありえない」
第一、年齢が合わない。
義之なる人物は年寄りには見えなくなっただけ、むしろ若々しくすらあった。
いやそもそも、存命なはずがない。
人間である限り。
そんな可笑しな思案にふけっていたせいか。
くれは、普段であれば近づけさせるらしない範囲に、大きな邪悪を感じた。
同時に、空を割く鋭い音が耳に届いた。
「っ!」
くれはは咄嗟に脇差を抜き、闇からの一撃を受け止めた。
自らの注意散漫に歯噛みしながら、くれは斬撃の元を振り返る。
「......何?」
そこには、不気味な人影があった。
その人物には黒い瘴気がまとっていてその顔立ちを確認することが出来なかった。
そんな正体不明の存在に、紅羽は毅然とした声音で呼びかけた。
「闇討ちとは卑怯な......武器を持ちながら、その精神に誇りを持たぬ恥知らずののようだ」
くれはの誹りに答えることなく、その人影が再び斬り掛かってきた。
「ちい!」
一撃が重い。
先ほどはその卑劣さを詰ったが、くれはは自身の考えを改めた。
「中々の腕前と見た。それならば正々堂々と向かってくればいいものを」
相手の攻撃をいなしつつ、もうこの人物に対しての呼びかけは不要と判断した。
闇討ちの相手が、素性を知れるような答えをするはずがないからだ。
ならば、切り伏せるのみだ。
「ふっ!」
再び放たれた一撃をくれはが受けた。太刀筋は以前冷静。
闇討ちが失敗したというのに、大した肝だ。
心の中で微かに賞賛しながら、
「はああ!」
くれはは相手の剣を見切り、そして交わしざまに流麗な一太刀を浴びせた。
「……っ!」
くれはに右腕を斬り飛ばされて、その人物が思わず息を漏らした。
「終わりだな」
くれはが勝負あったと確信し、刀を収めよた。
さて、どう詰問しようかとくれはが思考すると
「なん......だと?」
くれはが驚くべき現象を目の当たりにした。
その男の腕が見る見るうちに再生したのだ。
「な……そんなばかな」
くれはに一瞬生まれた隙をついてその男が再び斬り掛かってきた。
先ほどまでとは桁違いに攻勢が激しい。
混乱して思考がまとまらず、だんだんと押されているのを感じた。
頭の中に最近出会った、同じ体質の人物が思い当たった。
その戦闘の結末を思い出して、くれはは決めた。
「仕方がない」
猛攻の合間に、相手が大きく振りかぶった。
それを躱して、大ぶりから相手が体勢を崩したのを感じ、くれはは本差に手を掛けそれを抜こうとして、違和感を覚えた。
「な!?」
いつのまにか地面から謎の触手ががくれはの腕に巻き付いていた。
居合の体制が崩され、そのまま地面に倒れ伏す。
「く……」
傷はないが、今や触手はくれはの四肢を拘束していた。
身動きが取れない中、くれはは腰元の刀剣が奪われているのに気付いた。
「待て、それは」
抵抗するくれはの首に触手が巻き付いてくる。
「ぐ......かはっ」
脳への酸素供給が立たれ、くれはの意志が闇に飲み込まれていく。
そして、完全に暗黒に支配される直前、くれはの視界がその人影の姿を捉えたり
「まさか......そんなばかな」
言い終える前に、くれはの意識は闇に沈んだ。
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