不審
幸太郎は自室で七海とくれはと三人でPCの画面をのぞき込んでいた。
七海がネットに明るいという事をくれあhに伝えたところ、力を貸してほしいとのことだった。
「で、どうやって調べるんだ?」
一般的に知られていない三種の神器の情報など、ネットに落ちているとは思えなかった。
しかし、くれはは確信を持ったような表情で言った。
「三種の神器には、普通の神器とは違った特性がある」
「特性」
「それは、不見の呪いというものだ」
くれはの言葉をあまり理解できなかった。
「三種の神器は決して人がその姿を見てはいけないのだ……神が与えたもうた最上の神器である故、人はそれを見ただけで穢れを受ける」
「そんなことが」
「ああ、起こりえる……だから、そういったケガレモノとは関係なしに穢れを受けた人たちという情報を探してほしいのだ」
「わかった」
しばらく七海がキーボードをたたくが、目当ての情報は得られなかった。
不意に、ドアがノックされた。
「やあ、お友達かい」
「ああ、お邪魔してます」
勝手知ったるように七海が挨拶をして、隣ののくれはも慌てたように、
「始めまして、わたしはくれはと申します。以後お見知りおきを」
やたらかしこまったくれはに幸太郎は苦笑した。
それに今の名前は偽物で、本当の名前があると知っていることで余計におかしかった。
「そうなんだ、私は義之。幸太郎君の養父をやってるんだ。そして、この道場の師範をやってるよ」
「そうなのですね。私も剣術を嗜んでおりまして、この道場に通う皆様の実力の高さに驚きました」
「ははは、そうかい。それにしても、くれはさんも剣をやってるんだね」
義之が、くれはの腰元に刺さった剣に視線を落とした。
紹介した人間がそんな物騒なものを下げているということに幸太郎は一抹の不安がよぎった。
くれはも村に行ってそのまま来たもんだから忘れていたようで、どこか気まずそうにしていた。
義之がどんな反応をするか、二人して固唾をのんで見守った。
そして、予想通り義之は驚きで目を瞠った。
「そ、それは」
「あ、えっと……これはその」
くれはは何と答えたもんか分からないようで黙り込んでしまった。
幸太郎が言い訳を考えながら、義之の反応に違和感を感じた。
「どうしてこれがここに……」
「え?」
ただならぬ様子に義之への弁解の意志が、疑念に変わっていった。
その間にも義之の視線はくれはの顔と、刀剣を行ったり来たりしていた。
「義之さん」
「え、ああ」
幸太郎に呼びかけられて、ようやく我に返った義之だったが、それでもどこか心ここにあらずだった。
そんな彼を場の全員が注目していたが、やがて義之が取り繕うように言った。
「すまない。ちょっと、体調が悪くてね……気にしなくて大丈夫だ……それじゃあ、くれはさん、ごゆっくり」
そういってそそくさと去ろうとする義之だったが、幸太郎は彼が部屋を出る前にもう一度、刀剣と、そしてくれはの顔を確認したのが、見えた。
妙な雰囲気を残されて、
「ど、どうしたんだろうね、義之さん」
「ああ」
七海の言う通り、義之はあきらかに様子がおかしかった。
それまではいつもの穏やかな表情が、くれはの刀剣を見た瞬間に緊張で引きつっていた。
くれはも同じ印象だったようで、
「あの人に何か話したのか?」
「いや、してない。本当だ」
幸太郎の答えに、くれはは改めて心当たりを探ったようだったが、
「まあいい、とにかく私は今日はいったんここまでにする」
「ああ」
「それと一つお願いがある。これから君の部屋を拠点とさせてほしい」
「拠点?」
「ああ、これからここで皆で落ち合うことにしよう」
「な、なんで俺の部屋なんだよ」
「君はむりやり私の目的に口を挟んできているのだ。これくらいはやってくれてもいいだろう」
「でもなあ……」
あまり知って間もない女の子が自分の部屋に出入りするというのは健全ではないような気がした。
「それでは、私はこれで失礼する。明日もよろしく」
「また来るんかい」
「当然だ」
くれはが部屋を後にして、七海とそれを見送った。
何とも言えない空気と共に、思いがけず湧いた疑念が残された。
先ほどの義之の様子。
何か知っているような、そんな様子だった。
しかし、何を?
その疑問と同時に、もう一つの疑問がわいできた。
先ほど村で見た、箱の中から生まれた瘴気。
それと同じものを、以前も幸太郎は見た。
他ならぬ、幸太郎が凜を失った事件。
倉庫に戻った幸太郎が見た正体不明の異形。
幸太郎は意識を失い、気づけばベッドの上に起こされた。
しかし、その間どうしていたのか。
七海が義之を呼んだあと、彼の動向を知っているものはいない。
今まで気にしたことがないわけではなかったが、思い出したくなくて聞けなかった。
だが、ここにきて義之のあの反応。
何か知っているような気がしてならない。
幸太郎は窓の方を見た。
義之が道場の生徒に笑顔を振りまいている。
その表情からは先ほどの狼狽は見て取れなかった。
外は夕暮れも消え、辺りを深い藍色が包んでいた。
その闇と一緒に、幸太郎の疑問の答えも隠されていくようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます