再訪
七海とくれはを伴って幸太郎は再び村に戻っていた。
彼女の言う、ヤタノカガミのかけらを山神から回収するためだ。
念のためにくれははその腰元に大小を差していた。若い女性にしては物騒な出で立ちだったがここにいる人間は見慣れているせいで特に騒ぐこともなかった。
三人をその場所まで親方が案内してくれることになり、前を歩く親方が振り返っていった。
「いやあ、俺たちもあんなでっかい死体をどうにもすることができなくてな……まあ、俺も怪我してなければ一人で運び出してやるところなんだけどよ」
親方は笑い飛ばすように言った。
凜に斬られた傷は浅くはなかったはずだが、そんな軽口を叩けるくらいに回復していることに、幸太郎はむしろ驚いていた。
親方の話を聞きながらしばらく歩くと目的の場所にたどり着いた。
目の前には倒れ伏した山神の姿があった。
かなり時間がたっていて、体が溶け始めているようだった。
「まあ見ての通り体は溶け始めているみたいだが、それでもいつになるかわからねえ。幸いなことに腐臭とかはしてないから放置しようとも思ってたが、処分してくれるってんならありがたい」
親方の言う通り、腐食は進んでいるようだが、匂いはしなかった。
ケガレモノは討伐した後は他の動物たちと同じように腐食の過程を経るが、通常の生き物とは違い匂いや虫がたかったり等は一切しない。触れたものが穢れを受けることが関係しているというのが一般的な見解であるが、それならばどうして腐敗が起こるのかはよくわかっていない。
なにはともあれ、そんな状態の山神の死骸を目の当たりにして、くれはが悠々と死体に近づいていった。
「お、姉ちゃんいける口か、良い趣味してんねえ」
「ふむ」
親方に生返事を返しながら、くれはは手探りで目的のものを探していく。そしてすぐにそれを見つけたようだった。
幸太郎が見た時はかなり頑丈に刺さっていたようだが、腐敗が進んだことで簡単に外れたのだろう。
彼女の手のには銅版のかけらのようなものが握られていた。それは、幸太郎が山神と対峙した際に目にしたものと同じだった。
「それが……」
「ああ、そうだ。ヤタノカガミのかけらだ」
くれはが懐から幸太郎の部屋にも持ってきていた木箱を取り出した。
開けると、中の本体から瘴気が現れた。
「これは……!」
幸太郎はその瘴気に見覚えがあった。
それは、忌まわしき記憶。
凜と幸太郎を襲った謎の存在が放っていた瘴気に似ていた。
くれはが木箱の蓋を閉めた。
「ただ近づけるだけで瘴気が出るとは。いまこれを復元するのは危険すぎる」
「い、今のは一体何だい」
状況が飲めない親方が疑問を口にした。
「気にしないでください」
「そ、そんなことを言われてもなあ」
「とにかく用事は住みました。お邪魔しました」
用はなくなったというのようにくれは踵を返した。
「お、おい」
慌てて幸太郎がくれはに駆け寄る。
構わずくれはは歩き続けた。
「なんだ」
「説明してやらなくていいのか」
「なぜだ」
「だって、お前」
くれはがようやく幸太郎の方を向いた。
「言わなくてもいいことはたくさんある。それに、私の素性だって明かしたくないし、それを知ることであのお方を危険にさらすかもしれない。だから、あれでいいのだ」
くれはの言い分にも一理あると感じた幸太郎は、結局それ以上追及するのはやめた。
「なにはともあれ、ヤタノカガミについてはこれで回収完了だ」
「ならあと二つだな」
「ああ……それに一つについては私には心当たりがある。だから、次探すのはヤサカニノマガタマだ」
「そうか……わかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます