再出発

 目を覚ましてから数日後、幸太郎は自室に七海を招き、機械の右腕の調整を依頼していた。

「これでよし……おまたせこうちゃん」

「ああ、ありがとう」

「ううん、全然」

 今回の村での騒ぎによって酷使した機械の腕は、素人目にもわかるくらい損傷をしていた。

 それも七海の手によってすっかり元通りの状態になっていて、幸太郎は改めて幼馴染の技術に感心した。

「それで、これからどうするの?」

「ん?」

「だって、急に呼び出すんだもん。こうちゃんのことだから何か思いついたんだろうって」

 七海が知ったような顔をしていった。

「でも、凜ちゃんはもう助けたんだから、あたしは何していいかわからないよ」

「そう、凜の事だ」

「え?」

 七海は、自分で言っといて意表を突かれたようだった。

「俺は勘違いしていた。凜を連れ戻せば全て終わるなんてそんなはずなかった。だからこそ、俺は兄としてあいつのためにやらなければならないことがある」

「やらなければならないことって?」

「俺は、あいつの罪を償ってやりたい」

 七海が一瞬目を見開き、やがて意図を察して顔を曇らせた。

「償うって……そんなの、どうやって」

「ケガレモノと、それにまつわる全てを終わらせる」

「え?」

 七海があからさまに驚いた。

「それってどういうこと?」

「そのままの意味だ……ケガレモノをこの世から消し去る」

 幸太郎の中にある知識。

 それは、100年前にこの国に突如現れ、この国の平穏は乱された。

 幸太郎も凜も、七海だって他人事ではない。

 すべての国民はすべからく、ケガレモノによって奪われている。

 安寧、果てはその生命まで。

 この国の憂い事は全てケガレモノから始まっている。

 だからこそ、それを全て終わらせることこそ、いやそれだけが。

 凜のしたこと、そして凜を助けるために兄としてできる事だ。

 それが幸太郎の出した結論だった。

 しかし、それを聞いて七海は納得してないようだった。

 言いづらそうに、しかし決して引き下がるつもりはないような声音で、

「やっぱり無理だって……ケガレモノが何で生まれたのかだってわからないんだから……いくらこうちゃんでも、そんなの……」

「やってみなきゃわかんないだろ」

「でも」

「でもじゃない」

「じゃあ」

「じゃあでもない」

 お決まりの問答で押し通そうとする幸太郎だったが、さすがの七海も誤魔化されなかったようで、

「なら……具体的には?」

「?」

「具体的にこれから、どうするの?」

「どうするって……そりゃ」

「ケガレモノを消すってすごく大きなこと、まずは何から始めるの?」

 幸太郎の沈黙に、七海は訝しそうに目を細めた。

「もしかして、何も考えてない?」

「そ。そんなことないさ」

「……はあ、こうちゃんのそういうところ、好きだけど、さすがに今回は突拍子もなさすぎるし、だったら私だって納得できない」

「こ、これから考えようと思ってたんだよ」

「じゃあ、教えて」

「え、えーと、だな」

 しばらく幸太郎は取り繕うためにうなり声をあげた。

 タイミングを見計らって幸太郎は、七海を盗み見た。

 まったく開放する気がなさそうだった。

 幸太郎は内心頭を抱えてしまった。

 実際幸太郎は図星だったのだ。

 ケガレモノをこの世から消し去る方法なんて、むしろ教えてほしいくらいだった。

 しかし、知っている人間がいるのならばとっくに動いているだろう。

 つまりそんな人間いるわけがないのだ。

 そうやって、幸太郎が絶望的な答え探しをしていると、思いがけず玄関のチャイムが鳴らされたのが聞こえた。

「ああ、客か」

「私が出る」

「お、おい」

 これ幸いと応対しようとする幸太郎を遮って七海が玄関に向かっていった。

 見透かされたことに頭を抱えながら、対応を終えた七海に対する答えに、幸太郎が頭を悩ませていると、玄関から七海の驚いた声が響いてきた。

「く、くれはさん!?」

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