七海①
『ねえねえ!君、何持ってるの?すごいかっこいい、なあ凜』
『本当です、こんなの見たことないです!』
『……』
『僕も欲しい、ねえそれどこで売ってるの?』
『……』
『ねえ、聞いてるー?意地悪しないで教えてよ!』
『凜にも教えてほしいですー』
『……売ってないよ』
『え?じゃあ、誰かにもらったの?』
『……作った』
『え?』
『あたしが、作ったの』
『ほ、本当に!?君が』
『……まあ、そう』
『すっげえ!天才発明家だね!凜はこんな面白いの絶対作れないよ』
『む、うるさいです!お兄ちゃんだって同じです』
『別に……これくらい普通だよ……むしろ、ちょっと失敗しちゃったくらい』
『じゃあ、他にも色々あるの!?』
『……まあ』
『見せて見せて!』
『……ねえ』
『ん?なあに?』
『私のこと、気持ち悪いと思わないの……』
『え、どうして?』
『だって、私の髪の毛……変な色でしょ』
『そうかな?全然変じゃないよ!
『そうです!キラキラしてて可愛いです!』
『そうだ、君は今日から俺たちの仲間だ。その証にこのバッチをあげるよ!』
『私もお揃いですー』
『……何これ』
『何ってだから缶バッチ!俺はリーダーだから、①って書いてんだ!凜は②で君には③をあげるよ』
『……ん』
『よし!それじゃあ仲間になったところで、もっと他の奴も見せてよ!』
『……別に、良いけど』
遠き日を思い出しながら、凜はバイクで山道を走っていた。
風が頬にあたり、ひりひりと違和感を感じる。
乾いた涙の筋が頬に張り付いているのだ。
「はあ……」
難儀な性格だと自覚していた。
そのきっかけは自身の見た目によるものだった。
周りの子たちとははっきりと違う金色の髪。
自国を圧迫している憎き海外を想起させるその髪色は、七海を容易に孤独に追い込んでいった。
気づいたころには七海は独りぼっちだった。
そんな人生の中で、七海が夢中になったことがあった。
それは発明だった。
こんなものがあったらいいな、出来たら素敵だなと思うものを、自身の手で作り出す。
ままならない世界に、自分の想像を具現化できる行為は、独りぼっちの世界に無限の可能性を与えてくれた。
生活の中で目にする機械や道具、からくりの類は全て七海が独力で再現できたし、それ以上のものを七海は作り出すことが出来た。
我ながら、天才だと人知れず自画自賛をしていた。
だがそれらを人に見せることはなかった。
結局どんな素晴らしいものを作り上げても、自分の奇異な見た目のせいでそれを披露する機会は訪れなかった。
そんな七海の人生は、一人の少年の出会いによって変わった。
少年の名前は嵩原幸太郎といった。
少年は、七海の見た目の事なんて全く気にしないで、純粋に七海の発明を褒めてくれた。傍には妹であろう女の子がついていたが、やはりきっかけを作ったからか、あるいはそういう年頃なのか七海の意識は少年に強く向いていた。
少年に褒められたくて七海はより一層発明に打ち込むようになった。
部屋で腐っているだけだった発明品たちが日の目を浴びるようになって、それらのフィードバックを重ねてさらに複雑な発明もできるようになっていった。
七海はこの時初めて神に感謝をした。
発明の才能を与えてくれてありがとうと。少年と自身を繋いでくれるきっかけを与えてくれてありがとうと。
そんな感謝の日々は突然に終わりを告げた。
少年と妹に事件が起き、二人は分かたれてしまった。
明るかった少年の瞳から光が消えた。
妹というのは一人っ子の七海が思うよりもずっと少年にとって大事な存在だと気づいた。
もう一度、少年の瞳の光を見たい七海は自分なりに妹の代わりを務めようと思った。
人見知りを克服した。
口調だって明るくするよう意識した。
少年の瞳はくすんだままだったが、それでも微かな熱が戻っているように思えた。
少年と過ごす時間が、七海にとって必要で不可欠なものになっていって、まるっきり七海の生きる意味になっていった。
ある日少年が七海に頼みごとをして来た。
一緒に、妹を探してほしい。
七海は断るはずがなかった。
ほかならぬ少年の頼みだったからだ。
しかし同時に、あってはならない感情に気づいた。
もし凜を見つけ出して、連れ戻したら。
今の幸太郎と七海だけの世界が、壊れてしまう。
凜を失った時の幸太郎の消沈ぶり。この世のすべてが終わったかのような顔。
その凜が戻ってくれば、どれだけ彼は喜ぶだろう。妹という無二の輝きに彼の沈んだ心はどれだけ美しく照らされるだろう。
そして、その輝きの中で自分はどれほど意味のある存在でいられるだろう。
太陽が出ている間はどんな星も見えなくなるように、少年は自分に対して目を向けてくれなくなるのではないか。
バカげた空想だった。
少年がそんな男でないことはわかっていた。
だから、これは七海自身のただのエゴ。
つまりは独占欲なのだろう。
そうとわかっていてなお、七海はその感情と袂を分かつことが出来なかった。
「うっ……」
幸太郎との最後のやり取りを思い出す。
彼の言っていることは全て事実だった。
幸太郎を、終わりのない迷宮に閉じ込めているのは、ほかならぬ自分なのだから。
幸太郎が死に瀕し、それを助けた時。
本当に彼の事を思っていただろうか?
自分がただ、一人になるのが嫌だったのでではないか。
凜が戻って三人になるのを拒み、幸太郎を失い一人になることを恐れた。
それは純粋に七海自身の傲慢さでしかない。
「終わらなせきゃ……」
全て自分で蒔いた種だ。
幸太郎の苦悩、巻き込んだ村の被害。そして、自身の胸の痛み。
それらは全て当事者である自分が刈り取らなければいけない。
皮肉にも幸太郎との決裂が、七海にそれを教えてくれた。
やがて、レーダーの中心と赤い点が重なる地点についた。
そこにいた人物は、まるで七海が来ることを予想していたかのように、鷹揚とした態度で迎えた。
「七海ちゃん……じゃないですか」
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