闘争④
一旦ひなを家に送り届けてから、幸太郎は七海と共に自室に戻ることにした。
道中、剛毅の死についてあらましを七海に説明した。
「残念だね……剛毅さん、すごくいい人で、村の人から信頼されてて、それなのに」
「ああ」
「本当に……本当に残念だよ」
まるで家族を失った時のような表情で七海が言う。
その感情に共感しながら、幸太郎は今後の事について口にした。
「それで、俺はもうしばらくこの村に残ることにした」
「え?」
七海がまるで予想外といった風に答えた。
「どうして?」
「剛毅さんが……最後に俺に言ったんだ……ひなを頼むって」
今も鮮明に思い出せるその言葉。
「だから……俺はその想いにこたえなければいけない……村に残ってひなを守っていかないといけないんだ」
幸太郎の熱弁に七海は納得できていないようだった。
ダメ押しとばかりに幸太郎は続けた。
「それに、今回の事は俺に責任がある」
「責任?」
「ああ……実は、剛毅さんを殺したのは凜なんだ」
「え!?」
七海が驚きに目を瞠った。
「凜って……凜ちゃんの事?」
「ああ、そうだ」
凜について、彼女から聞いた今までの動向も七海に話した。
説明しながら幸太郎は七海の反応にどこか違和感を覚えた。
話を聞いていないというわけではない。
知った事実に対して自然な反応を返している。
だが、その傍ら何か別の事を気にしているような、そんな印象を受けた。
結局その正体はわかるはずもなく、幸太郎の話は結論にたどり着いた。
「とにかく、もう少ししばらく村にいることにする」
「そっか……」
まだ納得していない様子の七海だった。
そんな煮え切らない七海を見て、幸太郎自身もふと思い出した。
「そういえば、凜が気になることを言ってたんだ」
「気になること?」
「ああ、なんていうか、俺が今まで凜から逃げてたくせにって言ってたんだ」
それは何気なく振ったつもりの話題だった。
あれは凜の幸太郎に対する当てつけであったと思っている。
中々迎えに来ず、しかも来た来たでろくすっぽ立ちまわることが出来ず、結局剛毅を死なせてしまった。
そのことを揶揄していたのだと。
それを七海に話して、再確認したかった。
幸太郎は凜の事を真剣に追い続けていて、それを目の当たりにしている七海に否定してほしかった。
しかし、そんな幸太郎の期待とは裏腹に七海は言葉を失っていた。
「七海?」
幸太郎が呼び掛けても、七海はまだ呆然としていた。
「七海、おい、七海!」
「あ、うん……」
「何だよ、ぼうっとして。せっかく俺が話したってのにさ」
「ご、ごめんね。その、なんだか色んな事がたくさんあって……頭の中ぐちゃぐちゃで」
煮え切らない七海だが、ようやく我に返ったようだった。
「じゃあ、私もこうちゃんが帰るまでこの村にいることにするよ」
なんとなく七海がそう言いだすのは予想していた。
それに、なんだかんだ七海がいてくれると心強い気持ちもあった。
ひなとのことはどんな長丁場になるかわからない。
気の知れた人間の存在はありがたかった。
「そうしてもらえると助かる」
「うん、ありがとう……あ、あと忘れてたこれ」
そういって凜が何かを差し出してきた。
それは剛毅の持っていた脇差、フツノミタマだった。
幸太郎が受け取ると、もはや耳馴染みとなった鈴の音がなった。
「従者の人が、これをこうちゃんにって。剛毅さんの形見を、一緒に戦ったこうちゃんに持っていてほしいんだって」
「そうか」
幸太郎は剛毅の形見となったフツノミタマを握った。
剛毅と交わした約束が、幸太郎の中でより固まった気がした。
そして、幸太郎はいつの間にか自室の前にたどり着いていて、屋敷で待つひなのために再滞在の準備を進めた。
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