闘争③

 幸太郎は村に戻った。

 剛毅の遺体は七海伝手に従者に移送してもらい、負傷していた親方も医者に連れて行かせて一命をとりとめることが出来た。

 しかし、それでも幸太郎はこれから会う人物に対しての罪悪感に苛まれていた。

「にーちゃ!」

 帰還した幸太郎を見つけてひなが駆け寄ってきた。

 期待するようなまなざしを幸太郎に向けていた。

「にーちゃけがれもの、やっつけてくれた?」

「ああ。もちろんだ」

「そっか!わーい、やっぱりにーちゃすごい!」

 無邪気に喜ぶひな。

 そして、無情に尋ねてくる。

「ごーきは?」

 幸太郎は返す言葉がなかった。

 ひなにとって親同然の剛毅は、もういない。

 それをどうやってひなに伝えるべきか・

 剛毅との約束を思い出した。

『あの子を……ひなをお願いします』

 迷った挙句に幸太郎は言った。

「剛毅さんは……遠くに行ってしまったんだ」

「とおく?」

 幸太郎の言葉にひなが首をかしげる。

 その無垢な瞳に幸太郎の胸に痛みが走る。

「いつかえってくるの?」

「わからない……もしかしたら帰ってこれないかもしれない」

「な、なんで、やだ、やだよう」

 分かりやすくひなが取り乱し始める。

 ある程度予想していたとはいえ、そのただならぬ様子に幸太郎は狼狽えた。

 そして、言った。

「だから、それまで俺がひなと一緒にいるから」

「……え?」

「ああ」

「ほんとにほんと?ごーきがかえってくるまで、にーちゃはずっといっしょ」

「もちろんだ……村の人たちも、ひなと一緒だ……だから、さびしくないだろ」

 ひなは幸太郎の言葉を咀嚼する前をおいて、顔を上げた。

 その顔は納得できない色を帯びてはいたが、それでも笑っていた。

「わかった、ひないいこにしてまってる」

「ああ」

 そういって幸太郎はひなを抱きかかえた。

 小さい体だが、それはしっかりとした重みをもっていた。

 その重みが、今自分の口にした言葉の重みと釣り合っているのか、自分でもわからなかった。

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