回顧③
「はっ!?」
幸太郎は飛び起きて、辺りを見回した。
そこは自室だった。
前後の記憶を手繰り寄せて、今の状況を整理する。
最後に見た、妹の記憶。
そして、謎の物体。
生き物なのかどうかすらわからない、不気味な存在。
「いっつ……」
記憶の縁に手をかけると、それを拒むように頭が痛んだ。
混乱する幸太郎に向けて、聞き覚えのある優しい声が聞こえた。
「幸太郎君、大丈夫?」
「義之……さん」
幸太郎が顔を上げると、そこには案じるような表情の恩師の顔があった。
若く凛々しい道場の師範。頼れる存在。
義之の存在を認めると、堰を切ったように幸太郎の口が動いた。
「凜、凜はどこにいますか」
最後に見た凜の言葉が蘇る。
それは、助けを求めるものだった。
その凜はここにいない。
「俺のせいで、俺が変なこと思いついたせいで、あいつを巻き込んじゃったんです」
そして、自分は安穏とベッドに横たわっている。
幸太郎は縋るように、剛毅に詰め寄った。
しかし、義之の言葉は幸太郎の求めているものではなかった。
「……分からない」
「え?」
「七海ちゃんに呼ばれて、僕が倉庫に駆け付けた時に凜ちゃんの姿はなかった。そこにいたのは君と、あとは倉庫の中身が散乱しているだけだった」
「……そうですか」
予想はしていたとはいえ、幸太郎は落胆を隠せなかった。
義之の言葉によって、曖昧だった部分の記憶が徐々に輪郭を帯びていった。
「……義之さんは大丈夫だったんですか?」
「え?」
義之は意図が分からないといった風な顔になった。
「危険なものは何もなかったようだけど」
「でも俺、意識を失う瞬間に見たんです……何か化け物のようなものを」
「化け物?それってケガレモノの事かい?」
「違うんですけど……でも、少し似ているというか……ああ、くそ、説明が難しい」
最後に見た謎の物体。
靄のような澱のような不定形の物が凜にとりついていたのを確かに見た。
そしてそれには貌がなく、この国で忌まわしき存在とされる異形の姿を彷彿とさせた。
いや、むしろそれよりももっと邪悪な存在にすら見えた。
不意に胸に痛みが走る。
何はともあれ今回の事件は全て自分の安直な思い付きが引き起こしたものだ。
凜の剣道や七海の発明のように、自分も何かを成したいと考え、そのエゴのために巻き込んだ。
これは、俺の罪だ。
決して逃れてはいけない罪。
「幸太郎君」
幸太郎の震える方にそっと手が置かれた。
大きな手だった。
「……とにかく、幸太郎君は今は何も心配しなくてもいい……凜ちゃんの事も私がなんとかするから。君は今はひとまず休むんだ」
義之の優しい言葉が幸太郎の心にしみた。
それでも、幸太郎は立ち止まることは出来なかった。
この日から幸太郎の凜探しが始まった。
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