8 青色今日

「――さん。大丈夫ですか」


 現在、空調を全開で動かしている所で唯一の部屋であるにもかかわらず、空気は噎せかえるような熱気を帯びていた。わたしは駆動音の鳴り響く量子計算機室で、暗闇に青く佇むモニターに向け尋ねた。すると、待機画面を解除したモニターには、デフォルメされたチャイナドレスの少女が虫網を振り回しているドット動画が再生された。その下には「Now loading……」「載入中……」「だまってまっとけある」という文字が右から流れては消えていく。


 そして画面が揺らぎ、暗転した画面のなかに徐々に人影が映し出される。


「これが大丈夫に見えるね、新人?」


 バイジーさんは、まるで壊れたパソコンの画面に映った画像のように、所々が危うく欠けた姿で現れた。正面を向き、すこし俯きながら、静かに目を閉じている。


「すみません」

「……謝らなくてもいいある。要件を言うね」

「狐崎さんから差し入れです。好物だからと」

「ありがとうある。モニター横のマークにかざしてほしいある」


 わたしはモニター側面の「eat」と書かれた部分に黒いカードをかざした。すると、ピコン、と音がたった。


「ライチ……嬉しいある。今は食べる余裕もないので、落ち着いたら有難くいただくある。コザキにも感謝伝えといてほしいある」

「はい」

「ちょっと、抽象思考に割く体力ももも、惜しくて……あとじゅじゅ十六時間くらいは、必要事項を、データで入力して、ほしいある」

「分かりました」

「うん。よろしくある」


 何度も雑音を挟みながら言いきったあと、力尽きるように待機画面へと戻ったバイジーさんを見届け、わたしはその部屋をあとにした。

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