11 地球の短い午後

「諸君、急な召集をすまないね。だが時間がない。さっそく本題に入ろうと思う」


 所長は組んだ手のすきまから、いつになく真面目なトーンで話しはじめた。


「知っての通り、わが月世界の特産品は多岐にわたる。しかしわれわれとしては、とくに思い入れが強い商品はチーズであると言わざるを得ない。なにせ最も歴史が深い商品であるからね……ここにこそ、由々しき問題があるのだ。宇留賀くん」


 秘書さんが、げんなりした表情でリモコンをとりだし、ボタンを押した。スクリーンには、大きなチーズを担いで逃げるネズミと、それを追いかける猫の画像が表示された。それは知らない人はいないほど有名なアニメのキャラクターたちだった。


「ここで質問したい。チーズ大好きな動物といえば? はい、大上くん」

「……まあ、ネズミですかね」

「シャラアァァップ!」


 所長は咆哮し渾身の力をこめて会議室の円卓を叩いた。しかしその可愛らしい両腕ではぽすりと柔らかい音がたつのみだった。


 所長はしばらく叩いた体勢のまま静止していたが、気を取り直したように平静とした姿勢になり、いった。


「私はこれを某国の陰謀だと考えている。本人たちは否定しているが、無論そんなにあっさり認めるわけにもいかんだろう」

「まさか官房長官本人に訊くとは思いませんでしたが」

「白々しい顔だったねえ」

「妥当な反応でしょう」


 わたしは会議室の面々をみまわした。こういうことは日常茶飯事なのだろう、人もウサギも兎工知能も、みんなうんざりした表情で座っている。


「はい! というわけでね、今日から時間をかけてチーズのイメージキャラクターをウサギに変えていきたいと思います! 名付けて『チーズのイメージキャラクターウサギに変えちゃおう五〇年計画』!」

「なんやそのクソみたいな計画は」

「まずネーミングセンスどうにかしろネ」

「みんなひどぉい!」


 泣き真似をはじめた所長を置いて、全員で会議室を後にした。

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