3 青と白
「ここがマシン・サプライ・セクションね。略称はMSSが正式だけど、普通にマシン部で良いから。で、丹羽ちゃんは当面、我々事業企画部がひり出した企画書をここに提出しに行く係。正直相当めんどくさいけど、部の掟というか、登竜門だから頑張って」
狐崎さんは企画書を片手にMSS——マシン部の扉に近づいた。
『声紋認証を行なってください』
「月はチーズでできている」
『解錠しました』
大扉が開いた先には、巨大な白い空間が広がっていた。照明はどこにもなく、壁自体が光源であるかのように見えた。でも不思議と眩しくはない。天井からは白いコードの束があちこちから突き出た白い塊がいくつか吊り下がっていて、塊の周囲には青い作業着と青い帽子に身を包んだウサギ達が忙しなく動き回っている。
「若! 新しい企画書よ!」
『うるせえ叫ばなくても聴こえるっての!』
どこからか若い男性の声が響いた。狐崎さんが中に入っていったので、わたしはその背中を追いかけた。わたしたちはマシン部の一角にあるガラスで仕切られた会議室へと入った。「ま、座って待ってましょ」わたしは狐崎さんの隣の椅子に座った。
「ここは大丈夫なんですか」
「ん? なにが?」
「ウサギ、苦手なんですよね。たくさん居ましたけど」
「ああ、あの子たちは比較的大丈夫なのよね。無口だからかな……いや、そうでもないか」
狐崎さんはなにやら渋い表情で考えはじめた。そうこうしていると、急いでこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
「おい! ちゃんと足は消毒したのか……って、誰だあんた」
その声はさっき放送で聞いたものと同じだった。男性、二〇代前半、身長約一七〇センチ、青い作業着を着て、青い帽子を被っている。そしてその帽子からは、安価なブリーチ剤で脱色したと思われる金髪と——ウサギの耳が飛び出ていた。
「丹羽ちゃん。何か言いたいことある?」
「ハーフの方でしょうか」
「違うわッ!」
彼は帽子を取りながら叫んだ。ウサ耳は帽子のデザインらしかった。
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