第28話 ホツタボの街
お昼すぎには、地龍のエリスさんと別れた。そして俺たちは、アリスという新しい道連れを得て、3人で道を歩いていた。
ホツタボは、歩いて半日にもならない。アリスは見た目少女だが、その本質は地龍だ。そのため、大人と変わらないペースで歩くことくらい大した話ではない。夕方までにはたどり着くだろう。
「そういえば、アリスは
「うん。そうだよー。ヒーロパパの魔力と、マリィママの天恵のお陰だよー」
龍の試練に関する契約の影響で、アリスは突然、巨大化したか。何が起こったのか聞いてみると、どうやら
人間相手に負けなしのマリィに、騎士中隊を単独で蹴散らせる若龍であるアリス。2人が組み合わさった
「しかし、アリスの見た目は、マリィの娘と言われても全く違和感がないよなぁ」
金髪碧眼のツリ目。目鼻立ちのはっきりした顔立ちは、美人親子というよりは、美人姉妹だ。
「髪の毛も目も、マリィママと一緒だね」
「うーん。アリス、可愛い!」
マリィがアリスをギュッと抱きしめた。それを、くすぐったそうな顔をして受け入れるアリス。龍騎士の天恵のお陰なのか、性格のお陰か、会ってそうそう2人はすっかり馴染んでいる。
「うーん。尊い…」
仲良さそうに2人が、キャッキャウフフしてる姿はなかなかに絵になる。しかしそれはいいのだが。
試練の内容ばかり気にしていて、さっきとあることについて、考えが抜けていたことにさっき気がついた。というのも。
「夜、どうしようかね…?」
※※※※※
女性全員という訳ではないが、母親になることで、そのあたりがすっかりなくなってしまうことも珍しくない。
昔は旺盛だったのに、子供が出来た途端、妻ではなく母親になるのだ。そして、相手には、夫ではなく、子供の父親としての役割を求めてくる。
男は、そのあたり、子供が出来ても、あまり変わらないことが多い。自分は、夫であり恋人の延長だと思っていると、そのズレは夫婦間のトラブルになりやすいので、要注意だ。
「マリィも母親になったことで、そのあたり変わっちゃうのかね?」
「何がですか?」
声の方を見ると、すぐ横にマリィが立っていた。独り言のつもりが、マリィに聞こえていたらしい。
「ああ、マリィ。宿は取れたのか?」
「ええ。中で部屋が別れているスイートルームがありましたよ」
ホツタボの街についた俺たちは、この街で下ろす荷物を、
「俺が1人で寝るから、マリィはアリスと寝てくれ。というか、それしか分け方ないだろうからな」
「えー。旦那様、今晩はしないんですか?」
何を、とは聞く必要あるまい。マリィは頬を膨らませて不満を露わにしている。どうやら、マリィにそういう現象は起きていないようだ。
「いや、だってアリスが横に居てできないだろ…」
「まーそーなんですけどー」
しかし、親のそういうものを子供に見せるのは、虐待だ。義理とは言えどもだ。教育にいいとか、悪いとか、そういう話ではなく、普通、聞きたくなしい、見たくもない。
「ま、これからどうするかはゆっくり考えよう。何せ先は長いんだしな。慌てるようなことでもないだろ?」
「そーですね…ううう」
納得はしたが、不満が消えてなさそうだろう表情をするマリィ。とは言え、見た目と実年齢がまだ一致しているアリスを前に流石に…というのは理解しているようだ。こればっかりは諦めてもらうしかないだろう。
※※※※※※
その日の夜、俺は、ベッドに置かれた小さな椅子に座って久しぶり…この世界に来て始めての1人晩酌をしていた。
窓からは月が見えた。…この世界でも空に浮かぶこの衛星の名称は月、らしい。大きさも明るさも地球の月に瓜二つだ。
「月夜に飲む、一人酒もなかなか風情があって悪くない」
酒は、最後に残ってた地球のバーボン。これを飲み終わったら、もうカラだ。ツマミは保存食にとストックしてた、干したり、炒ったりして、塩を振っただけの豆だ。
「これで、地球の余韻も終わりか…」
戻ることはできない。
勇者召喚については、これまでの道行の街で、様々な文献を覗き見してきた。そのどこにも地球に戻るような方法については書かれていなかった。
文献によっては、はっきりと一方通行であることも記述されていた。何となく覚悟はしていたが、突きつけられると色んな感情も湧いてくる。
だから未練を残さないように、基本的に地球のものは売っぱらってきた。
「地球のものがなくなっていく中で、俺の気持ちも処理できてきたかな?」
もちろん、全く未練がないわけではない。自分の家には秘蔵の酒が何本も残っていた。ネットで予約していた酒もあった。取材旅行で飲もうとしていた地酒もあった。
「って、地球に残してきた未練って言っても、酒のことばっかりだな」
だから、こんな天恵を授かったんだろうな。両親は遠くに住んでいてほとんど交流もない。兄弟姉妹が両親の近くに住んでいるから、連絡も年一だ。仕事の忙しさで友達ともすっかり疎遠だし、恋人もいなかった。
要するに仕事に夢中で、ほかをおざなりにしてきたのだ。
「しかし、こっちに無理矢理呼ばれてから、怒涛のような日々だったよなぁ」
こちらに来てからは環境が変わった。妙に便利な特殊能力を授かり、好みどストライクの恋人?嫁?を貰った。天恵を使って、ほとんど濡れ手に粟の、とんとん拍子で金が稼げて、それなりに楽しい生活を送っている。
順調すぎて、怖いくらいだ。
「トラブルらしい、トラブルもなく、ここまで来ることができたけど…今後もトラブルなく平穏に過ごしていきたいものだよなぁ」
そんなことをのんきに願った。
しかし、これだけ便利な天恵を持ってるのだ。利用しようという人間は、山ほどいるだろう。利用しようという人間が山ほどいれば、トラブルに巻き込まれない訳がない。
俺はこのとき、そんな簡単なことにも気が付かないくらい、気が抜けていたのだ。
拾った金髪巨乳メイドが、酔った勢いで毎晩押し倒してきます そこらへんのおじさん @ukimegane
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