第15話 温泉地を目指して
領主の使者から渡された紙には、俺の言った条件を満たす候補地を選定したものが書かれていた。挙げてくれた候補地は10もあった。
はてさて、どこから回ろうか?ううむ、と紙を見ながら悩んでいたら、マリィが横からヒョコと顔を出してきた。
「旦那様、1番近いところから順に行っちゃいましょう!」
「ま…それもそうか。悩んでいても仕方ないか」
「そうですよ。どうせ悩んだって正解なんてわかりっこありませんから、まずは行きましょう」
「ならば、まずは、この近くにあるコセネというところから行こうか?」
火山地帯にあるらしく、軟水が湧き、高度も高く冬はかなり冷える。そこでは秋から冬にかけてだけ作られるサボン酒があるらしい。
しかし1番近いところとは言え、こことはかなり植生が変わるだけのことはあり、徒歩旅で1月はかかる距離だ。沖縄を除いた、日本列島横断くらいの長さはある。
「このいろんな条件が旦那様のいう、らがーびーるが出来る条件なのですか?」
「厳密にはラガービールの原料の1つだな。完成させるにはほかに必要なものもあるしな」
ほかにもラガービールを作るには、あとホップが必要になってくる。ホップは、ツタ性の植物で、アルカリ性土壌なら比較的どこにでも生える。
とは言え、急ぐ旅でもない。ホップも、ゆっくりと探すことにしようとは思っている。
「コセネに行くから、
「そうですね。どうせ行くならそうしましょう。お酒代も稼げて一石二鳥ですね」
一石二鳥って言葉は、こっちにもあるんだな。
※※※※※
まだ昼前だが、
「えええ!?いっちゃうんですか!?ヒーロさんが毎日氷を売り来てくれるから、大盛況だったんですよ?」
ここのところ毎日売ってたお陰で話がどんどん広まり、却って値段も上がっていった。
氷そのものを売ることもあるが、冷やす必要のある荷物を大量に置いている。そのため、保存という意味でも定期的に氷が必要になるらしい。
結局、5部屋全部、金貨150枚と、結構な額を稼がせてもらった。
「数年は働かなくても、遊んで暮らせるくらい稼がせてもらったからなぁ。しばらくは、好きなことをさせてもらうことにします」
「残念です。わかりましたコセネ行きの荷物、今日あるか、確認しますね…確か氷室付き馬車に頼む予定の荷物が…」
受付嬢が、後ろにある棚から書類を取り出すと、ペラペラと捲って確認作業を始めた。
「うーんと。もし良ければ、コセネに行く前に少し寄り道して、ホツタボというところに行ってもらえませんか?」
「ホツタボ?」
「はい。地図で言うとですね…」
机の上に広げた地図での説明によると、コセネがここから徒歩で60日ほど。ホツタボが20日。だが、地図を見る限り、遠回りになるのは5日程度。それだけで、ホツタボを経由して、コセネに行けるようだ。
「普通の氷室馬車だと、氷の積載量もあるので余計な日にち使うことが出来ません。だから、別々に派遣する必要がありますけど、ヒーロさんなら、氷の補充が要りませんもんね?」
「まぁね…」
マリィに目配せすると『旦那様のお好きなように』と囁いてきた。急ぐ旅でもないし、ま、受けてもいっか。
「それぞれ依頼料は、どれくらいなんですか?」
「荷物が、結構な量ありますので…ホツタボが金貨60枚、コセネが195枚ですね」
「合わせて255枚ですね?わかりました、引き受けます」
うーん。瞬く間に手持ちの金が増えていく。今回の収入が入ったら金貨600枚近くなる。地球だったら投資に回してるだろうなぁ。
「ありがとうございます!氷室を備えた馬車は、高い上にひっぱりダコで数が足りないくらいなんです。助かります」
「報酬があるので、構わないですよ」
この高額な報酬は、設備費や維持費があっての費用なんだろうなぁ。それに、前に聞いた『氷室を使った馬車の輸送20日で金貨30枚』という報酬から推測するに、馬車2台分くらいの荷物量はあるのだろう。
「流石に、
「わかりました。それくらいはサービスします。人手集めるので、1時間後くらいにまた来てくださいね」
「わかりました」
※※※※※※
1時間後。近くのバーで、昼前から酒を2杯ほど飲んで時間を潰した俺たちは、再び
「積み込んだものですが、荷札が付いているのでそれを確認しておろしてください。くれぐれも間違えないでくださいね」
「わかりました。ホツタボが赤い札、コセネが青い札でしたよね」
「はい。ではよろしくお願いいたします」
エネルギー保存の法則が壊れそうだ。つくづく天恵というのは不思議なものだよなぁ…。
「氷室がスッカスカに空いたので、よかったら氷をまた売ってくれませんか?」
「まぁ、いいですけど…」
「保存用には十分に確保できたので、あとは販売用と予備用ですね」
俺としても
ボロいなぁ。俺、最近、巨乳メイドと一緒に寝て酒飲んでるだけで、なーんも努力してないのに、こんなにもらって良いのかなぁ。
「旦那様?どうかされましたか?」
「あ、いや。こんな簡単に、お金を稼げちゃっていいのか、ちと不安になってね」
「簡単?ああ、でも旦那様の天恵はそれだけ珍しいものですからね…例えば、生まれつき顔がいい人がそれを利用してお金を他の人よりうまく儲けているのと同じですよ」
顔がいい。親から受け継いだ資産がある。身体が恵まれている。確かにそういった差があるのはある意味、仕方のないことだ。
そして、その生まれ持ったアドバンテージを利用することもおかしなことではない。天恵もそれとおなじということか。
「ありがとうマリィ。なら、せっかく授かったんだから、ありがたく使わせてもらうことにするよ」
「そうですよ!それに誰かを貶めたり、困らせて得たお金ではなく、みなさんにも利があって得たお金ですから、堂々としましょう!」
「そうだな…」
拉致同然に異世界に連れてこられたというアンラッキーの分、ラッキーを得たとでも思っておこう。ラッキーと言えば、召喚されたあの城から追い出されたのもラッキーだったよな。
あの大学生らしき2人、今頃モンスターとの戦いの最前線に送られているかと思うと…。
「却って、追い出されてよかったかもな…」
「ふふ。まさかこんなのんびりとした生活になるとは思っていなかったですもんね」
「そうだよな。ま、」
マリィという、恋人兼護衛まで出会えてこうして一緒なのだから、めぐり合わせというのはあるんだなぁ、と思う。
「旦那様、そろそろ行きましょう」
「ああ」
さて、ホツタボ目指して、移動を開始しますかね。
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