第14話 お礼
「ふいー気持ちいいなぁ」
翌朝、隣で寝こけるマリィを起こさないようにそっと部屋から出た俺は、井戸で水を汲んで顔を洗っていた。うむ。深酒の翌朝の洗顔は、最高に気持ちいい。
「あーいたいた。良かった」
顔を洗い終えてタオルで顔を拭いていたら、声を掛けられた。顔を上げると…あれ?この女の子、昨日、
「何か?」
「あ、はい。領主様から、ヒーロさんを呼ぶように召喚要請がありまして…」
「は?領主様からの呼び出し?」
「はい」
「えええええ!?えと…領主様ってこの土地で1番偉いあの領主様ですよね?」
「はい」
うえええ。面倒くせぇ。絶対に面倒くせぇよ。と思っていたら、そんな心の内が顔に出ていたのか、受付嬢さんは、軽くため息をついた。
「大丈夫です。そんなに面倒なことにはなりませんよ。ここの領主様は気さくな方ですから」
「あ、顔に出てました?」
「出てました。気をつけて下さいね。ここの領主様ならともかく、本当に面倒な領主も居ますので…」
ま、そうなったら、俺の
中に入れた人も、後から許可を取り消すと排除できるほか、俺に攻撃しようとした場合も、自動で外に放り出してくれる。
中での移動は実空間でも同じ距離移動する。そのため、広間を通じて別の部屋の出口から出るとそれだけ離れたところに出る。
出口の、すぐに目の前に新しい入口を作れば、ずっと
「あと、大変申し訳ありませんが、呼ばれているのはヒーロ様だけですので…」
「ああ、わかりました。マリィには、留守番をしていて貰います」
※※※※※※
「霊薬を届ける助けをしてくれたことを礼したくてな…今日は貴殿にきてもらった」
「はい」
呼ばれて行った領主の館では、あまりご大層な感じではなく、お礼も執務室で言われた。タヌタナ子爵だ、と自己紹介をしてきたのは、40歳ほどの紳士だった。
ちょうど執務に空きが出来たタイミングのようで、机の横には大量の書類が積まれていた。
「そんなに畏まらないでくれ。私は貴族でも下から数えた方が早いくらいの下っ端貴族だ」
「わかりました。しかし、天恵を使っただけで、大層なことはしていません。それに
「なるほど。とは言え、あの薬は娘のためのものだった。言わば、娘の命の危機を救ってもらったのだ。個人的にお礼を言いたいのだ。改めてありがとう」
改まってお礼を言われると、罪悪感がふつふつと湧いてきた。何せ、最初は依頼を受けることを渋って、報酬を釣り上げたりもしたのだから…。
「どういたしまして…」
わざわざ、俺にお礼を言うためだけに呼び出すだろうか?もちろん、お礼を言う以外の何かがあるのだろうな。
「ところで、貴殿の天恵は『
「あるのでしょうね。俺のいた世界では普通の言葉なので…」
そこまでバレているのか。この世界、プライベートも何もあったもんじゃねぇな。しかし、日本語通じるし、漢字使ってるのに、この世界に
「ふむ。たしか氷ができるほどの温度の部屋などがあると聞いている。容量も
「らしいですね。
やっぱり俺の天恵のことか。
「ウチの娘を娶る気はないか?」
「へ!?」
「親の贔屓目なしに、器量のよい娘だぞ。娘も貴殿にお礼を言いたかったようだが、流石に病み上がりなので止めたのだ」
「せっかく助かったんですから、無理はしないでください。病み上がりが1番大事ですから…」
「そうだな。それでどうだ?娘はな、うちより、だいぶ上の貴族からも声がかかるほどの器量だ。貴殿に損はさせないと思うが…」
それで俺を縛り付ける訳ね。そう考えると、すでにマリィという恋人がいるのは、こういうときに断る理由にもしやすくて助かるな。
「俺にはすでに妻がいます。それに、とてもではないですが、妻を二人を娶るような器量も度胸も甲斐性もないので、大変申し訳ありませんが…」
「そうか。残念だ。では何か替わりに褒美になるものはないかな?」
うーん。下手なものを貰うと、縁がついて縛り付けられそうだなぁ。それは面倒だから…うん。
「実は…知りたい情報がありまして…それをご存知でしたら、おしえて頂けると幸いです」
「情報か…いったい何に関する情報かな?」
「サボン酒についてです」
「サボン酒って…あの全体的に黄色くて、泡立っている酒のことか?」
「そうです」
ラガービールをこっちで再現するためには、ラガービール用の酵母を見つける必要がある。すなわち下面発酵ができる酵母だ。
「サボン酒の中でも、高地や寒いところで作られたり、あるいは寒い時期限定で作られたり、冷暗所…洞窟のようなところで作られたりする、サボン酒です」
地球では古く、ラガービールの酵母は中世から使われていた。冬期限定で、洞窟の中で保存して発酵させたらしい。
「なるほど…わかった。なんのためにその情報を欲するのかわからないが…異世界の人間ならではわかる話なのかな?ただ、すぐには答えられないから、何日か時間をもらってもいいかな?」
「はい。よろしくお願いいたします」
俺はそう言って、その場を辞した。数日後、タヌタナ子爵からの使者が、俺の注文したことに関する情報が書かれた紙束を持ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます