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 じゃあ、呆然としている男性諸君もいることだし。

 話し方を戻して、さっさと本題に入ってしまおう。


 もちろん『種麹』の事だ。


 先程も言ったが、『種麹』とは麹菌を穀物に付着させ培養、そして冷却か乾燥させた麹造りに欠かせない一品だ。

 そもそも、味噌を作るにしても醤油を作るにしても、清酒でも甘酒でもみりんでも構わない。

 日本食に欠かせない調味料を醸造する為には、ほとんどの場合この『麹』が必要。

 そして、『麹』を造るのには『種麹』が必要。


 ここで問題が一つ。

 ――この『種麹』の作り方、全然記録が無いのだ。


 まるで隠された密書の様に、秘伝の代物の様に。

 生前調べたけど、作り方が僅かにしか載っていないのである。


 ネットで調べても、当たり前の様に『麹』を作る時は必ず『種麹』という単語が出てくる。

 調べて正体は分かったものの、何故か『種麹』の作り方は頑なに乗っていない。

 いや、だから『種麹』はどうやって、集めるの?


 もうコレは本に頼るしかないと町一番の本屋に行って。

 「麹の本とか、発酵関連の本有りますか」と聞いた際に、ただのレシピ本のコーナーに案内された際は、本当にどうしようかと思った。


 なんでも、種麹を造っているのは『種麹屋さん』だけで、それも日本に10件しかなく。どんなに有名な醸造のお店も、こちらの『種麹屋さん』から『種麹』を仕入れて、『麹』を作っているとか。それからお酒や醤油、味噌などを醸造している訳だが。


 此処まで来ると、本当に秘伝な何かに感じて来くるわ。

 因みに『種麹屋さん』は500年以上も昔から存在し、続いている名店である。

 

 ただ、民間でも『種麹』は造れるは、造れるらしいわ。

 でもコレだけはハッキリ言っておきたい。



 地球にいるみんなは。

 ちゃんとした職人さんが居るのだから『麹』を造る際は、『種麹屋此方』から『種麹』を買って造ってください。



 そんなこんなで、本屋を巡り。結果、その『種麹』が乗っている本を何とか見つけた訳だけど。

 ――ちょっと、難し過ぎて覚えるのが大変で、完成できる自信が一切ない。


 正直言えば、ネットの方でも一件だけヒットしたけど。

 あれ、どう見ても個人で出来るような作業じゃなかったわ。



 「――ですので、今回は昔見た文献を参考にして、造って行こうと思います!」

 「……良いかジョシュア、今回のは完成しても絶対食べたりするなよ。危険しか感じない」

 「あ、ああ……分かった」


 隣に二人は放っておいて。

 私の『種麹』作りを始める前に最初に、簡単に本に載っていた作り方を紹介しよう。


 まず、用意するのは種となる菌だ。

 此方は稲穂を用意して欲しい。中でも黒いカビ玉が付いた穂を。

 これが、今回の種麹になる種、稲麹だからである。

 このカビは厳密には先ほど言ったニホンコウジカビとは別物らしく。

 昔に麹はコレを利用していたそうな。

 

 次に七分き米を用意。

 普通の白米はぬかや、胚芽を完全に取り除いたものなのだけど。

 七分搗き米とはわざと糠や胚芽を残した状態の米の事よ。

 因みに胚芽はいがとはいずれ芽になる部分の事ね。


 最後は木炭。

 綺麗なモノを用意して。


 作り方は、簡単にいくわね。

 穂を一度、乾燥させたら、カビ玉胞子だけを取る

 お米を浸漬、蒸煮。

 お米が熱いうちに木炭を入れて、良くかき混ぜておく。

 冷めたら此処で稲麹から取った胞子をまんべんなく振り入れかき混ぜる。

 後は温度と湿度を保ち、数日様子を見ながら待つだけよ。


 その途中で色々な事をやらなきゃいけないけど。簡単にだから。詳しくは書かないわ。

 完成したら緑の胞子で覆いつくされるそうよ。ソレを乾燥させたら完成。

 他の菌を入れないように、触ったらだめだし、使う物は熱湯殺菌しておくの。


 コレが一応、参考にした正しい作り方。

 まあ、詳しくは書かなかったから、成功はまずないと思うけど。


 と、まあ。

 これから私が行う事がどれほど無謀か、分かってもらうために説明させて頂きました。

 それではここから、本題に入ろうと思います。



 「と言う事で、今からお米ライスを作ります!」

 「はぁ……」


 まずは、目指す事はお米を炊く事。

 至って普通に、お米を炊くのです。

 いえ、今回は蒸していくのですが。


 何故って、これも本に書かれていたからよ。


 「昔は米飯にカビを生やし、ソレを原料にして『麹』が作られていた」――と。


 つまり、もしかしたら。ご飯で『種麹』が作れる可能性があると言う事じゃない?

 というか、私が出来る範囲で造れるとしたら、これぐらいしかない。


 「つまり、米を蒸してソレを腐らせると?」

 「ええ、そうなります。正確には、カビを生やせるのですが」

 「――それは、食べられるのか?」

 「対策はあります!満を持して、今回はほぼ玄米ご飯とおかゆを用意することにしました!」


 高らかに宣言。

 そして、パーシバルさんから頂いた。精米もろくにされてない、お米を取り出すのである。


 何故、精米をしていないかって?

 麹菌のご飯エネルギーが、このぬかにあるから。

 それに昔の米飯って白米じゃなくて玄米だったのでしょう?

 だからこっちの方が良いのかなって思って。

 一応、精米はこれからするつもりよ。



 作業は簡単です。

 この米を一度蒸して、数日常温で放置。カビを付けたいと思います。

 さっきもいいましたが、念の為蒸し米の他に、おかゆも用意して。

 何故おかゆかって?現代でも、そんな実験があったと聞きますから、試してみようと思って。


 因みに、なぜ10月かと言いますと。

 先ほど言った黒カビの生えた稲穂、所謂稲麹が付いた稲穂ですが。

 季節的に収穫前の8から10月あたりに良く見られるそうです。

 つまり菌の生産や付着に適した温度が、その当たりなのかなと判断して、10月にこの『種麹』造りを始めさせて頂きました。


 では、そんな余談は置いておき。

 さっそく準備を始めたいと思います。


 「それじゃあ、まずお米に傷を付けましょう」

 

 最初の行う事は、お米に傷をつけてから、改めて精米する事です。

 先も言いましたが、糠の成分が麹菌のエネルギーになると言うので、米と米を磨り潰す様に押し付けて、糠の成分を米に傷と言う形で付けるのです。。

 精米はほんの僅か、1、2パーセントまで。玄米の外側を本当に僅かに削っただけね。此方は本業のパーシバルさんにお願いしたいと思います。


 「まあ、精米なんて水車使うだけだから良いけどさ。お嬢は何するんだ?」

 「……わ、私は。……カビ取りです」


 精米をパーシバルさんに任せて、私がやる事と言えば。

 先に説明しました稲麹の元である黒カビを、穂から集め取る事です。

 ――いや、念のために。

 実は玄米とは別に、玄米にする前のカビ玉胞子が付いた穂。此方も用意して置いたのだ。


 失敗したら、取り出した此方胞子を振りかけてみようかなぁ。

 今後はさっきのレシピも試してみたいから、胞子の付いた穂の保存をしようかな……と。

 保存の仕方は簡単で、この穂に木炭の粉を一緒に混ぜて瓶に入れるだけ。



 三人もいるのだから、精米中には作業も終わるでしょう。


 でも、一応令嬢がカビ取りって。周りはどう思うのかしら。いえ、もう遅いわね。

パーシバルさんを見れば相変わらず呆れ顔。完全に私の扱いに慣れて来たようだ。

 まあ、助手は良い。次に、私はジョシュア様に視線を向ける。



 「ジョシュア様は、私を手伝ってくださいませ」

 「あ、ああ。分かった」


 

 ジョシュア様は相変わらず、ジュリアンナには甘い。



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