第4話 おしゃべりエッチ男との未来
井上君は、十歳年上のりつ子氏とは、半同棲状態をしているが結婚の意志はない。
半同棲状態なんていずれはフェイドアウトするときがくるだろう。
結婚すると、妊娠も含めいろいろな制約が生じる。
同棲なんてカバン一つもって、十五分後去っていけば終わりである。
井上君は、どうやら私のことをりつ子氏に話しているらしい。
思ったことを胸に秘めておくことができず、ペラペラとしゃべってしまう癖のある井上君のことだから、私のこともりつ子氏に話している。
「あんた、杉菜(私のこと)が好きなのか?」
りつ子氏が井上君に発した、ジェラシー調の口調である。
「とんでもない。杉菜なんてキライだよ」
ああ、そうですか。
まあ、井上君は私の上司であるが、プライペートでは問題外の相手である。
もしかしてりつ子氏は、私にジェラシーを感じているのだろうか。
とすれば、それはとんでもないお門違いというものである。
「昨日、プラットフォームで杉菜を見かけたよ。
電車の中の私を、まるで猿を見るようにジロジロ観察していたよ」
えっ、何を言ってるの?
確かに私は井上君からりつ子氏のスナップ写真を見せてもらったが、印象に残るようなルックスの女性でもなかった。
明らかにりつ子氏は、私に敵対心を抱いているが、それは全く無意味なことでしかない。
そもそもの発端は、井上君がりつ子氏と長々と半同棲状態にいることである。
そりゃあ、りつ子氏にしてみたら宙ぶらりん状態で不安であろう。
かといって、別れる勇気も決心もない。
だから私へのジェラシーというお門違いの感情を抱いているのだろうか。
「あなたは姦淫してはならない」(十戒)
姦淫というと、売春などフリーセックスのことであるが、同棲も含まれる。
「セックスすると飽きてくる」
昔行った繁華街のホストクラブで発した、山下智久似の二十歳のイケメンホスト君の発言。
「飽きてくるな」
これまた、万年ボケ担当の売れない漫才師風の二十二歳の男性の白けたあいづち。
私は女性というものは、飽きられたら終わりだと思っている。
だから、簡単にセックスなどする気は毛頭ない。
ましてやセックスで男性の心をつなぎとめるなんてことは、不可能だということは知っている。
セックスさせてくれないと別れるなんて男性とは、もちろんこちらから縁を切る。
私の身体はもはや私のものではなく、神のものである。
私の身体は神の宮である。
井上くんとりつ子氏は、今は幸せにしているが、それはりつ子氏のガマンがあるからであろう。
ときどき別れ話がでてくるが、同棲という以上仕方がないことである。
りつ子氏も、早く結婚できる相手を探した方がいいのかもしれない。
長すぎた春の行方はどうなるのだろうか?
決定するのは、りつ子氏であるような気がする。
ある日、井上君が私に愚痴ってきた。
「昨日もまたやってきたで。あの金取りおばさん」
やっぱりな。有名新興宗教は、金ばかりとられるというが、やっぱりその通りである。普通、新興宗教というのは金持ちから金をとるというが、その宗教は貧乏人から雑巾のごとく搾り取るという。
井上君曰く
「昨日、アパートに帰ると門の前にあのおばさんが、両腕を広げて通せんぼのポーズを取り、仁王立ちしてるんだ」
なんだ、それ、まるでホラー映画さながらである。
「そのおばさんって、何者なの。知り合い?」
私は思わず聞いてみた。
「いや、違うよ。別の地区の津山なんていう婦人部長のおばさんだよ」
ははあ、わかった。同じ地区だと話題になるから、別の地区のおばさんを使うんだな。しかも婦人部長というと、一応お神輿の如く、リーダーだと祭り上げられてるので、断り切れない。
もし婦人部長が断ったら、その地区にまで悪影響を及ぼし、その地区の会員までが、迷惑と被害を被る。
だから、婦人部長が金集めに回されたのだ。
そういえば、その宗教の会報を配達するために、朝三時にたたき起こされた女性が、うつ病になってしまったというのを聞いたこともある。
自分と人を救おうと思って入会した宗教が、自分自身の精神をやられ、家族にまで破綻に追い込む。まさに破壊であり、つらい事実である。
しかし、新興宗教はなくなることはない。
本当の救いはあるものかと、私は半分絶望的な気持ちに陥っていた。
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