第3話 今は隠蔽有名新興宗教のセクハラ男
私がその次出会ったのは、転職した印刷会社であった。
私はそのときオペレーターをしていたが、社内旅行のとき、その男性ー井上君ーとは知り合った。
ある有名新興宗教だという当時二十五歳くらいの、少し小太りのお笑い系の男性。
お世辞にもイケメンとはいえないが、どことなく愛嬌のある顔をしている。
社内旅行の電車のなかで、向かい合わせに元彼女との恋バナというよりは、セクハラともいえるH系な話を長々としかけてくる。
出会った馴れ初めは、同じ会社で私と同じオペレーターをしていたのだった。
まあ、ここまではごくフツーの恋話であるが、そのあとが常識外れの異常性を感じさせる。
井上君は十歳年上のりつ子というその女性を、りっちゃんと呼んでいた。
「男と女には越えられない第一線があるじゃない。
まあ、僕たちはもう超えてしまったけどね」
ギョギョッ、こんなこと、社内の人のいる前でお互いのことすら知らない私にする話なのだろうか。
井上君は私に、いきなりりつ子氏のスナップ写真を見せた。
ミニスカートを履いたスラリとした平凡な容姿の女性であるが、顎が少し突き出ている。
井上君はりつ子氏と半同棲状態にあるという。
キリスト教では「あなたは姦淫してはならない」(十戒)の通り、同棲は禁止している。
同棲から結婚に至るケースもあるが、お互いに慣れあいになってしまって新鮮味がなくなるという。
いや、それどころかいわゆる乗り捨てゴメンといって、相手の女性が妊娠した途端に去っていく男性もいる。
ある無名のロックミュージジャンが、同棲中の彼女が妊娠した途端に
「彼女とは価値観が違うということがわかりました。だから別の道を歩んでいきます」と言って別れたという。
なんと無責任な発言。私の考えが古いのかもしれないが、シングルマザーの苦労が伺える。
残念ながらシングルマザーの多くは年収220万円しかない。
まあ児童手当があったり、2020年から住民税減額というメリットもあるだろうが、昨今のコロナ渦と値上げラッシュ、また契約社員という従業員には決して有利とはいえない雇用形態ー一か月及び一年にわたる契約だが、明日から来るなと言われればそれで終わりである。
井上君はりつ子氏と結婚する意志は、あまりあるとはいえない。
まあ、十歳年上ということもあるだろうが、今の世の中、そう障害があるとはいえない。
りつ子氏は父子家庭であり、井上君はりつ子氏の父親にお付き合いしているということを挨拶にいったが、結婚となると躊躇する。
いや、それどころかなんとりつ子氏との恋話、いやY談を私に話しかけてくるのである。
個人情報以上のひどいY談を私にしてくる。まるで芸能週刊誌のようである。
井上君曰く、
「僕の初体験は、中学卒業の二年後にあたる十七歳のとき。
相手は、同じ中学の商業高校の女子。なんと公園の裏の茂みでやっちゃったんだよん。家に帰ると、おかんが血のついたパンツを見て
「あんた やったやろ。これからはコンドーム付けなさいよ」
ん、まあその通りだな。彼女とは結局別れに至ったが、でも僕はコンドームつける気はないよ」
よくもまあ、しゃあしゃあとこんなリアルなY談を私に話しかけてくるものだ。
自分が女にもてるということを、誇示したいんだろうか。
それとも、ひょっとして私を誘っているんだろうか。
呆れるを通り越して気持ち悪い。
最後に一言
「ねえ、こんなことを聞いて怒らない?
あんた 経験ある?」
今の時代でいえばとんでもないセクハラ満載である。
まあ、だいたいその新興宗教は金とエロなどという人間の本能を直撃するような、評判のよくない宗教だというのは周知の事実であるが。
なんと井上君は、りつ子氏の過去を私に話してくるのだった。
「今からする話は、極秘の話。
りっちゃんは、僕と付き合う前は、いわゆる不倫をしていたんだ」
ギョギョギョッ そんな話を私にされても、なんと応答したらいいのかわからない。驚きの表情を隠し、私は興味本位で井上君の話に聞き入っていた。
「りっちゃんには、とても好きな男性がいたけれどね、相手には妻がいた。
妻とはうまくいっていないと言っていたが、まあこれは不倫男の常套セリフである。優しくって包容力があって、りっちゃんはその男性をリスペクトもしていたんだ」
これもよくあるパターン。
世間ずれした男性が、若い女性を手なづけることなど赤子の手をねじるより簡単である。その優しさと腰の低さで、相手の心を開かせモノにしようとしているのである。
「ある日、そのおっさんがホテルへ行こうというから、りっちゃんは言いなりになって、嫌われたくない一心でホテルへとついていったんだ」
まるでアメリカのティーンエイジャーみたいだな。
アメリカのティーンエイジャーは、嫌われたくない一心で、男性からの誘いにNOと言えない。
でも男性は結局SEXが目的なので、用が終わると用済みであり、女性を捨てようとする。なのにすがりつく女性、その心の傷を麻薬で埋めようとする。
つらい現実である。
話を元に戻そう。
りつ子氏は、嫌われたくない一心で不倫男に誘われるままに、ホテルに行った。
男は手慣れた様子で、部屋まで案内した。
ところが部屋の鍵を閉めた途端に、男の態度が豹変した。
いきなりズボンのチェックを開け、いわゆるフェラチオ行為を強要されたのである。りつ子氏は、ホテルという密室のなか、泣く泣くその行為に応じたという。
結局不倫男は、最初からそれが目的でりつ子氏に優しくしていたのだろう。
母性本能をもった女性は、肌のぬくもりと羽毛で撫でるような甘い優しさに弱い。
それを知っていて最初は女性を優しさで丸め込み、そのあと態度を豹変し、恐怖に怯えた女性を奴隷の如く言いなりにさせる。
つらい現実である。
もちろんこのこと以来、りつ子氏は不倫男と別れたが、心の傷からは逃れられなかった。
第一、そのことを井上君に打ち明けたこと自体、心の傷が癒されていない証拠であろう。
ミニスカートに派手なファッション、これも心の傷を隠すためのパフォーマンスなのだろう。
しかし、りつ子氏の暗い過去を何の関係もない第三者でしかない私に、ペラペラしゃべる井上君の神経が私には理解できない。
私の反応を試しているのだろうか?
それともなにか面白い表情をすることを、期待しているのだろうか。
「その井上君とはいう男は、そうやってあんたを誘惑しているんだよ」
ある中年男性に言うと、そんな答えが返って来た。
まさかあ、仮にそうだとしても、私はそんな誘惑に惑わされないぞ。
ある日、井上君がにやにや笑いながらピースサインをしてきた。
「おーい。二回、俺たちの愛の結晶だ」
二回というのは、二回セックスしたという意味である。
こんなこと、第三者の私に自慢(?!)するものだろうか。
それにそのことが、愛の結晶なのだろうか。
単にスケベ―なだけじゃないか。
私には理解できない。
会社の人は、みな井上君とりつ子氏が半同棲しているのを知っている。
「四年もつきあっているのだから、いい加減結婚してあげなきゃ、りつ子さんが可哀そうじゃないの」
そんな声に、井上君はただうつむくばかり。というと結婚する意志はハナからないのだろう。
「俺らは結婚する必要はないんだ。だって、結婚以上のことをしているから。
例えば毎日彼女の手料理を二人で食べたりしてるだろう。
こんなこと、結婚しているカップルでもないんじゃないか」
イケシャアシャアとよく言うよ。全く聞いてて呆れる。
りつ子氏は、井上君のために手料理をつくってくれてるんじゃないか。
「りっちゃんのつくったクリームシチューと焼きそば、めちゃうまかったよ」
りつ子氏は、井上君専用のシェフじゃないんだ!!
結婚しているからこそ、夫の座に甘えて妻の手料理を食べない、いや食べられないケースもある。
昔のビートたけしがまさにそうだろう。
四十年以上家に帰らず、子供も妻に任せっぱなし。
浮気はするが、あくまでも芸の肥やしでしかなく、本気にはならない。
給料は、給料明細書の金額を見ることなくすべて妻に渡し、その中の一部を自分の小遣いとして使うという。
ビートたけしは、家庭は大切にしていたのだろう。
まあ現在は、多額の慰謝料を妻に渡し、離婚という道を選ぶ結果となったが。
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