第3篇 ゆくひと、まつひと

紫陽花の葉に露が落ちていた

冷たい風が頬をなでる

爽やかな朝のこと


仄暗い公園でうつむく男が一人

その両手一杯に朝露が溜まっている

男はそれを覗き込み、自身の娘を見た

紫陽花の葉から雫が伝い落ちるように、

記憶が流れてゆく

救いようもない後悔に苛まれながら、

男は朝に溶けてゆく


仄暗い公園で人を待つ少女が一人

もう帰ってこないと知りつつも、少女は雲に手を伸ばす

かすかに震えた指先が凍えるような月にふれた

冷たい風に飛ばされる塵のように、

記憶が溺れてゆく

叶いそうもない願いを呟きながら、

少女は朝に口付ける


手繰り寄せれぬ糸の先

伸ばした腕が千切られるような

爽やかな朝のこと

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