第192話 ”クラーケン”討伐

 丈二とおはぎは、バサバサと空を飛びながら半蔵の話を聞いていた。


「まず、おはぎちゃんの攻撃はやはりクラーケンに効いてるだろうと、河津先生が予測しています」

「ええ、俺もおはぎの攻撃が命中して、のけぞっているクラーケンを見ました。ただ、あれだけで倒すのは……」


 艦隊からの砲撃や、探索者たちの攻撃に比べて、おはぎのビームは大きな効き目を表していた。

 しかし、それだけでクラーケンが倒せるほどではない。

 

「ええ、現状では無理です。河津先生が言うには、奴の体を覆ている鱗が、おはぎブレスを防いでいるようなのです」

「鱗が……そうか!」

「ええ、逆に言えば表面の鱗が無ければ、より大きなダメージが望めます。奴の中身にビームを撃ち込んでやりましょう」


 鱗に包まれたクラーケンは鎧を着て体を守っているようなものだ。

 鎧を着ているから、おはぎのビームという剣を通さずに体を守れている。

 しかし、鎧を剥がしてしまえば、柔らかい中身に剣を突き刺すことができる。

 効き目のほどは未知数だが、上手くいけばクラーケンにトドメを刺せるかもしれない。


 だが、それには一つ問題がある。


「問題は『どうやってクラーケンの鱗を剥がして、おはぎのビームを食らわせるか』ですね」


 クラーケンの鱗は、剥がれた先から生え代わっている。

 闇雲に攻撃をしても仕方がない。

 鱗が剥がれた瞬間を狙わなければ……。


「俺に作戦があります。まず――」


 半蔵が作戦を語った。

 リスクはあるが、上手くいけば一撃でクラーケンを倒せるような作戦だ。


「――どうでしょうか?」

「……分かりました。その作戦で行きましょう。半蔵さんを信じます」

「お任せください」


 作戦は決まった。

 後は行動するだけだ。


「おはぎ、行くぞ!!」

「グルゥ!!」


 バサバサと空に舞うおはぎは、ひときわ大きく息を吸った。

 おはぎの口から光が漏れ出ると、おはぎの前に魔法陣が現れる。

 全力特大のビームをぶっ放す。

 しかし、そのためには準備に時間がかかる。


「グオォォォォン!!」


 クラーケンは頭上で轟く魔力の奔流ほんりゅうに気づいたらしい。

 おはぎを睨みつけると、無数の触手をおはぎに向けて伸ばそうとした。


『全艦砲撃準備!! クラーケンの触手を阻止しろ!!』


 艦隊からアナウンスが流れると、一斉に砲撃が始まった。

 無数の爆発によって触手は落ちていくが、それでもクラーケンは諦めない。

 ボロボロと落ちていく触手を無視して、おはぎに襲い掛かろうと手を伸ばす。


 クラーケンは空にだけ注目しているが、それではいけない。

 海上にも竜が居る。


「ギャオォォォォン!!」


 海上にラムネの雄たけびが響いた。

 すでにラムネのブレスは準備済み。その凶暴な口から閃光が放たれた。

 光が目指すのはクラーケンの頭。

 ズドン!!

 大きな爆発が巻き起こると、ぐらりとクラーケンがのけ反った。


「アオォォォォォォン!!」


 さらに、ぜんざいの遠吠えが響いた。

 海上を走り抜けるぜんざいは、ラムネが作った隙を逃さずにクラーケンへと迫る。


「グオォォォ!!」


 しかし、クラーケンはすぐにぜんざいを睨みつけると、触手をぜんざいへと向けた。

 襲い掛かる無数の触手を避けるぜんざいだが、いつまでも避けられるわけじゃない。

 攻撃を避けるために跳び上がったぜんざいへ、触手が迫る。

 避けられる軌道じゃない!!


 ぷるん。

 しかし、ぜんざいはぬるりと触手を伝って避けた。

 いや、ぜんざいの背中に乗っていた寒天が、触手を受け流しぜんざいの軌道を変えた。

 クラーケンも、狼の背中にスライムが乗っているとは思わなかったらしい。

 仕留めたと思って、攻撃を緩めたせいでぜんざいは一気に駆け抜けてクラーケンへと迫る。


ぜんざいの体を寒天がパワードスーツのように補助して突撃する。

 ぜんざいの脚力と、寒天が体をばねのようにして生み出したエネルギーが合わさって、その突進は音を置き去りにしていた。


「ガルルルルルルゥゥゥゥゥゥ!!」


 ズドォォォォォン!!

 バキバキとクラーケンの体表を覆う鱗が割れていく。

 これでクラーケンは丸裸だ、もはや奴を守る鎧は無い。


「グルゥ!!」


 ちょうど、おはぎのビームも準備ができた。

 これでクラーケンは終わりだ。


「グオォォォォォン!!」


 しかし、クラーケンは諦め悪く、おはぎに向かって触手を向ける。

 ぴかりと触手が光ると、空に向かって閃光が走った。

 その光はおはぎと丈二に向かって真っすぐ進み――二人を貫いた。


「――変わり身の術は忍者の基本です。にんにん」


 ぽん!!

 光が貫いたのは、どこかから現れた丸太だ。

 すぐ近くには、凧によって空を飛ぶ半蔵の姿があった。

 つまり本物は――


「グルゥゥゥゥゥ!!」


 おはぎの口から閃光が迸る。

 その光は星のような瞬きを繰り返して、クラーケンへ迫る。


 ドッ――!!

 強い閃光と爆音。

 近くに居た者たちが、意識を失いかけるほどの衝撃。

 海が大きく爆ぜると、バシャバシャと雨のように水が降り注ぐ。


 クラーケンはぐらりと体勢を崩すと、ぶくぶくと大きな体を沈めて行った。


「やっ……たのか……?」


 沈んでいくクラーケン。

 それに合わせるように、魚人モンスターたちの動きも止まるとバシャバシャと倒れていく。

 丈二たちがジッとクラーケンを見つめていると、クラーケンは静かに海中へと沈んで行った。


「うぉぉぉぉぉぉ!! 倒したぞぉォォォォォォ!!」


 誰とも知らぬ探索者が叫んだ。

 それに合わせて探索者たちが喜び、次いで船に乗る自衛隊の隊員たちが喜び出した。

 やった。

 無事に倒したのだ。


「おはぎ、お疲れ様」

「ぐるぅ♪」


 丈二が首筋を撫でると、おはぎが嬉しそうに鳴いた。

 後は帰って、牛巻たちが治るのを祈るだけだ。

 そうして、おはぎはしおかぜへと戻ろうと沈んだクラーケンに背を向けて――

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