第191話  海戦

 護衛艦『しおかぜ』に乗って、丈二たちは沖合へと出た。

  クラーケン討伐に向かうのは海上自衛隊が所有する十隻の艦隊だ。

 しおかぜを含めて護衛艦が五隻。空母が一隻。潜水艦が四隻。

 これらの船が、深海から垂れ流されている魔力を頼りにクラーケンの位置へと向かう。


 クラーケンとの戦闘が想定される位置に着くと、全ての船が止まった。

 艦隊が止まると、不気味なほど海が静かだった。まるで、周りの生き物が全て逃げ出したようだ。

 丈二は背筋に寒い物を感じながら、次の動きを待つ。

 船が止まってから少しして、しおかぜの艦内にアナウンスが響いた。


『四隻の潜水艦が、クラーケンと推定される巨大不明生物の反応を探知した。これより攻撃態勢に移行する。各員、戦闘配置につき、準備を整えろ』


 それを合図に、丈二たちを含めた全ての乗員に緊張が走る。


『潜水艦四隻、発射用意……撃て!!』


 ……ズドドドドドド!!!!!!!!

 一瞬の間を置いて、爆音が響いた。

 海面に大きな水柱が立ち上る。同時に、海面から巨大な触手が飛び出した。

 一本や二本ではない。無数の触手がうねうねと、のたうち回る。

 最後に巨大な波が巻き起こると、タコの頭が顔を出した。

 なんとも、血色の悪いタコだ。銅が錆びたような汚い緑色をしている。

 タコのような見た目のクセに、体表にはびっしりと魚のような鱗が覆っていた。


「アイツがクラーケン……牛巻やごましおを苦しめている元凶か……」


 その姿は巨大だ。護衛艦よりもデカい。

 あれに立ち向かうと思うと足がすくむが、丈二はグッと力を入れた。


『全軍攻撃準備!! 撃て!』


 艦内に流れるアナウンスと共に、護衛艦から砲撃が始まる。

 空母からは戦闘機が飛び断ち、潜水艦が攻撃しているのか水中から水柱が立ち上る。

 探索者たちも船から飛び降りると、すいすいと水上を滑りながらクラーケンへと向かって行く。


「ガルゥ!!」


 探索者たちに合わせて、ぜんざいも海に飛び出した。背中には寒天を乗せている。

 ぜんざいの足元に空気が巻き起こる。ぜんざいは海に落ちることなく、海面を駆け抜けて行った。


「ギャオォォン!!」


 ぜんざいを追いかけるように、ラムネも泳ぎ出した。


「おはぎ、俺たちも行くぞ」

「ぐるぅ!」


 丈二がいつものように魔法を使うと、おはぎが巨大化した。

 丈二が背中に乗ると、おはぎは翼を広げて飛び立つ。


「グルゥゥゥ!!」


 上から見ると、討伐隊の布陣がよく分かる。

 正面からは艦隊が砲撃。側面や背後から探索者たちが迫っている。


「おはぎ、俺たちも攻撃するぞ」

「グルゥ!!」


 おはぎは大きく口を開く。

 口から光が溢れると、次の瞬間には閃光がほとばしる。

 閃光がクラーケンの頭に当たると、大きな爆発が起こった。


「グオォォォォォン!?」


 クラーケンからクジラに似た低い悲鳴が響いた。

 おはぎのビームは効いているようで、クラーケンはのけぞる。

 しかし、ダメージは大きくないようだ。

 クラーケンはブンブンと触手を振り回して暴れまわる。


「グオォォォォ!!」


 触手の先が淡く光る。

 なんだあれは……?

 丈二が疑問を抱いた瞬間、答えは分かった。


 ズバァァァァァァン!!

 触手の先から、おはぎのブレスのように閃光が走る。

 しかも無数にある全ての触手から。

 閃光は海を切り裂きながら、でたらめにのたうち回る。


「おはぎ、避けるんだ!」

「グルゥ!!」


 おはぎは急旋回して閃光を避ける。

 しかし、艦隊はこんな攻撃は避けれない。

 丈二が心配して振り向くと、しおかぜを始めとした軍艦の前には半透明のバリアが張られていた。

 丈二が使っているバリアの魔法を巨大にしたような見た目だ。

 そのバリアが触手から伸びる光を防いでいる。


「すげぇ……現代の軍艦ってバリアまで張れるのか……」


 クラーケンが出したビームには驚いたが、艦隊には防御され、探索者たちは難なく避けている。


「あれがクラーケンの切り札なら、このまま押し切れるぞ……!!」


 クラーケンは砲撃、爆撃、探索者たちからの攻撃を食らって暴れているだけだ。

 こちらに大きな被害は出ていない。

 このまま押し切れるかと丈二が考えた時だった。


 ドガン!!

 クラーケンの頭に砲撃が直撃。クラーケンの体表を覆っている鱗が飛び散った。

 防御も削れている!!

 そう丈二が喜んだが、飛び散った鱗に変化があった。


 パキパキ!!

 鱗にひびが割れると、ぱかりと卵のように割れた。

 飛び出してきたのは、魚人のようなモンスターたち。

 魚人たちは探索者と同じように海面を滑るように動くと、探索者や艦隊に襲い掛かる。

 丈二たちの数的有利が崩れた。


『クラーケンの鱗より、魚人形モンスターが出現!! 総員対処せよ!!』


 艦隊からアナウンスが響く。

 このままでは船が危ない。

 一度、船に戻って立て直すべきか……。


「おはぎ、一度船に戻って――」

「丈二さん。少し待ってください」


 おはぎに帰還をお願いしようとしたとき、耳に付けていたインカムから声が聞こえた。

 声の雰囲気から半蔵だと分かる。


「半蔵さん。どうしたんですか?」

「丈二さんたちは、そのままクラーケンとの戦闘を継続して、奴にトドメを刺してください」

「俺たちが……?」


 どうやってクラーケンにトドメを刺すのか。

 丈二が困惑していると、半蔵が作戦を語りだした。

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