第189話 宇宙生物
キャンプの奥へと進むと、ひときわ大きなテントが張ってあった。
中に入ると、ごちゃごちゃと機械が置かれている。
レーダーや通信機器の類なのだろうか。
丈二がキョロキョロと見回していると、見知った顔を見つけた。
「やぁ、丈二くん」
「え!? 河津先生!?」
テントの奥。大きなテーブルの横に河津が座っていた。
のんびりと白いカップを傾けている。
コーヒーの香ばしい匂いが、丈二の元まで漂ってきた。
「どうして、ここに?」
河津動物病院に電話をした時には、河津は出張に行っていると聞いたが……まさか、ときわ市に来ているとは思わなかった。
「ときわ市で病気が流行ってるのは知ってるね? それを治せって、無理難題を押し付けられてね」
「あれ、でも河津先生って獣医さんですよね……?」
「僕は『精霊』の研究がしたくて学問の門戸を叩いた口でね。研究のためには人もモンスターも診れる方が都合が良かったんだよ」
医師免許とか獣医師免許って、そんな簡単に取れるものなのだろうか。
まぁ取れてるから、こうしてときわ市に呼ばれたのだろう。
頼りになる河津だが、ちょっと変な人である。
「あれ、河津先生は流行り病を調べてるんですよね。どうしてクラーケン討伐のキャンプに居るんですか?」
「どうやら、クラーケンと流行り病は関係性があるようでね。流行り病にかかった子供たちからは、一様に同じ魔力が検出されて――」
そうして河津が語った内容は、キビヤックが話したのと同じことだった。
流行り病と、牛巻たちの病気。
どちらもクラーケンが原因で起こっていることらしい。
「それと、深海に潜む怪物は目撃情報から『クラーケン』だと思われているけど……僕は違うと思う」
「どうしてですか?」
「仮称クラーケンの魔力からは、あの『ナメクジ』と似た波長が検出されている」
精霊に寄生して、生物を強化する代わりに暴走させるナメクジ。
丈二たちもナメクジによって引き起こされたトラブルには何度か巻き込まれている。
そのナメクジと似た波長が、クラーケンから検出されている。
「また、あのナメクジの仕業なんでしょうか?」
おはぎはナメクジたちを消し飛ばすことができる。
同じようにクラーケンがナメクジによって暴走しているのなら、おはぎによって簡単に処理できるかもしれない。
しかし、河津は難しい顔をして首を振った。
「断言はできないけど……少し違うように感じる」
「どうしてですか?」
「ナメクジや深海からの魔力は、僕たちやモンスターが宿している精霊に由来する魔力とは、根本的に波長が違う」
「根本的に……ですか?」
根本的にと言われてもピンと来ない。
人間と虫くらいの違いだろうか。
「例えるなら宇宙生物みたいなものだね。ケイ素生命体って知ってるかな?」
「あぁ、はい。なにかのSFで聞いたことはあります。地球の生物は炭素によって体を作ってるけど、宇宙にはケイ素によって体を作るケイ素生命体が居る――かもしれない。みたいなヤツですよね?」
「そうだね。それぐらい違うって認識で良いよ」
それは確かに、根本的に違う。
人間と虫ですら、同じ地球に暮らす仲間であるためDNA配列に似たところがある。
しかし、体を構成する主成分から違うとなると、まったく違った生命体となるだろう。
それくらい、ナメクジや深海に潜む怪物は異質らしい。
「それじゃあ、ナメクジみたいにおはぎの魔力が効くことは無いですか?」
「いや、むしろ逆だね。ナメクジと同じように、おはぎちゃんの魔力が弱点になると思う。ナメクジほど簡単に倒せるかは分からないけどね。少なくとも、今回の討伐作戦で一番重要なのがおはぎちゃんなのは確かだ」
「……それは緊張しますね」
他にも沢山の探索者が居るため、少し楽ができるかと思っていた。
しかし、河津の予想が正しければ、もっとも重要な役回りになるのは、おはぎだ。
むしろ責任重大である。
丈二がゲッソリしていると、河津は『ははは』と笑った。
「丈二君は初めて病院に来た時から変わらないね。まだ荒事は苦手か」
「多少は慣れましたけど……やっぱり戦いは怖いですよ。おはぎたちを傷つけたくありません」
「ぐるぅ!」
『任せて!』と、腕の中でおはぎが鳴いた。
よしよしと頭を撫でると、ぐるぐると喉を鳴らす。
「そうか……丈二君の臆病だけど優しい所が、おはぎちゃんたちを惹きつけてるのかもしれないね」
河津は納得したように頷くと、ぽんぽんと丈二の肩を叩いた。
「僕は医者だから、戦いの役には立てない。だけど……死ななければ治して見せる」
「はい。ほどほどに頑張ります」
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