第188話 キャンプ

 探検を終えたころには、船はときわ市の港へと着いていた。

 港には何隻かの軍艦が並び、物々しい雰囲気に包まれている。


「なんだか静かだ……流行り病のせいかな……」


 丈二はしおかぜから伸びた階段を下って港に降りる。

 モングリアに来た時は賑わっていた港だが、現在は閑散としていた。

 寂れたゴーストタウンのようだ。


 ときわ市に住む子供たちの間で流行っている病のせいだろう。

 キビヤックはクラーケンによって引き起こされた病気だと予想していたが、それは状況から見た推測だ。

 具体的な証拠はない。

 そのため、国は病気の原因は断定できておらず、一般的には流行り病として認識されている。

 病を防ぐために外出を防ぐのは、当たり前のことなのだろう。


 丈二が港に降りると、後ろから稲毛が降りて来た。


「すぐそこの公園に自衛隊のキャンプが設営されてます。まずは、そこに向かいましょう」

「分かりました」


 稲毛の案内の元、丈二たちは公園へと向かった。

 公園にはカーキ色のテントがずらりと並んでいる。

 自衛隊のキャンプという事もあって迷彩服に身を包んだ人が多い。


 しかし、中には独特な服装の人たちも交じっている。

 ピカピカした鎧や、魔法使いのローブのような服装の人たちだ。

 あれは探索者たちだろう。

 

(まぁ、一番目立ってるのは俺かもしれないけど……)


 丈二自身はホームショップで売っているような作業服姿だ。

 派手派手な探索者の人たちよりは、自衛隊に近い格好をしている。

 割と自衛隊のキャンプ地に溶け込めるような格好だ。

 しかし、引き連れているモンスターが異常だ。


 頭には小さなドラゴン。

 背後には屈強そうな狼と、大きなスライムが控えている。

 これで目立つなと言う方が難しい。

 自衛隊からも探索者からも、チラチラと視線を受けていた。


「がう」


 『客だ』と、ぜんざいが呟いた。

 なんのことだろうか?

 丈二が振り向くと――。


「うぉ⁉ 半蔵さん、いつの間に……」

「お久しぶりです。丈二さん」


 そこに居たのは『黒子くろこ半蔵はんぞう』。

 メガネとポニテが似合うクールなイケメン探索者で、丈二も何度がお世話になっている人だ。

 初めてのダンジョン配信の時には護衛を務めて貰い、最近では犬猫族の特訓をお願いしている。


「あ、もしかして半蔵さんもクラーケンの討伐に?」

「はい。丈二さんたちの護衛を命令されています」

「それは心強いです。また、よろしくお願いします」


 丈二が半蔵と話していると、気づいた稲毛が振り向いた。


「おや、黒子さんが来てくれたのなら、後の案内はお任せしましょう。良いですか?」

「了解です」

「それではお願いします。牧瀬様、私は一度失礼いたします」

「分かりました」


 丈二が頷くと、稲毛はスタスタと何処かへ向かった。

 なかなかの急ぎ足だ。

 やはり忙しいのだろうか?


「今回のような大型モンスターの討伐は、ギルド側もやることが沢山ありますから。稲毛さんも忙しいみたいです」


 丈二が稲毛の後姿を見ていると、半蔵が説明してくれた。

 忙しい中、ここまで案内してくれたらしい。

 これ以上は邪魔をしないようにしておこう。


「ところで、丈二さんは『水上ブーツ』を使ったことはありますか?」

「水上ブーツ……?」

「水上を歩くための魔道具です。見ててください」


 半蔵は海に向かって飛び出した。

 そのままジャポンと海に沈む姿を想像したが、想像は外れて半蔵は海の上に立っていた。

 半蔵は十秒ほど海を歩いて見せると、ぴょんと丈二の隣に戻って来た。


「魔法によって水に反発して、海の上に立てるんです。感覚としてはスケートみたいなものですね」

「なるほど、探索者の人たちはどうやって海で戦うのかと思ったら、魔道具を使うんですね」


 剣を使って戦うような探索者は、どうやってクラーケンと戦うのかと思っていたら、専用の魔道具を使うらしい。

 半蔵は簡単そうに海に立っていたが……スケートみたいと言われると自信が無くなる。

 丈二はスケートをやったことが無い。


「持っていない探索者には自衛隊から貸し出されています。丈二さんは……おはぎちゃんと戦うので必要無いかもしれませんね」

「そうですね。借りたとしても使いこなせる気がしません……」


 丈二のゲッソリとした顔を見て気づいたのか、半蔵が無理に水上ブーツを勧めることはなかった。

 たぶん、履いたところで役に立たないので意味がない。


「すいません。余計な話をしてしまいましたね……とりあえず、挨拶も兼ねて前方指揮所に向かいましょう」

「分かりました」


 少しだけ気まずい雰囲気を感じながら、丈二たちはキャンプを進んだ。

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