第181話 バーベキュー

「肝試し大会の成功を祝して、カンパーイ!」

「ぐるぅ!」

「かんぱいにゃー!」


 丈二がグラスを持ち上げると、犬猫族たちもコップを持ち上げた。

 コップに入っているのは、犬猫族たちの大好きなオヤツがプリンの形に固められた特別なオヤツ。

 いつものより値段が高い。特別なお祝い用だ。


「肉や魚もどんどん焼いて食べてくれ。いっぱい貰ったからな」


 肝試し大会が終わった次の、おはぎダンジョンではバーベキューが開かれていた。

 肝試し大会の打ち上げである。

 大量に置かれたクーラーボックスには、肉や魚がパンパンに詰まっている。

 しかし、全体を見回すと、特に魚の量が多いことが分かるだろう。


「それにしても、モングリアに行っておいて良かったなぁ。魚まで貰えたんだから」

「漁業組合さんたちからのお礼でしたかにゃ?」

「そうそう、モンスター退治のお礼として送られてきたんだよ」


 モングリアに行った際に、丈二たちはダンジョンから溢れ出てきたモンスターを退治した。

 あのままモンスターが街に飛び出していたら、もっとも被害を受けたのは港沿いだったろう。

 それに気づいた漁業関係者の人たちから、助けたお礼として送られてきたのが、バーベキューのお魚たちだ。


「ぐるぅ♪」

「がるぅ!」


 おかげで、魚介が好きなおはぎも、単純に食いしん坊なぜんざいも喜んでいる。

 二匹揃ってぶんぶんと尻尾を振って、魚が焼きあがるのを待ち構えていた。


「お、これなんて良い感じの焼き具合じゃないか?」

「がう」

「ぐるるぅ♪」


 丈二が焼きあがった魚を皿に取ると、ぜんざいは『先に食え』とおはぎに譲った。

 おはぎは『ありがとう♪』とお礼を言うと、ガツガツと魚を食べた。

 年長者のぜんざい、流石の貫禄である。口から垂れているよだれは、ちょっとカッコ悪いが……。


「はい。こっちも焼きあがりましたよ」

「がう」


 少し待って、ぜんざいの分も焼きあがる。

 同じように皿に取ったのだが、口の大きなぜんざいはペロリと食べてしまった。

 おはぎは一匹目を食べてる途中なのに……これは、まだまだ焼く必要がありそうだ。


「ほわほわぁ!」

「おっと、野菜の運搬か」


 寒天に乗ったマンドラゴラたちが、スライスされた野菜を運んできた。

 ちなみに、寒天はファミレスなどで使われているような運搬ロボットのように変形している。

 いったい、どこから知識を仕入れて真似してるのだろう。


「ほわぁ!!」

「ほわぁ……」

「ほわー」


 『もっと野菜食え!!』『美味しいですよぉ……』『ねむー』と、マンドラゴラたちが野菜を勧めて来る。

 いや、最後のねぼすけに関しては、ただ眠いだけか……。


「お、じゃあ、かぼちゃとトウモロコシを貰おうかな」

「ほわぁ!」


 『まいど!』と隊長が叫ぶと、寒天が体を伸ばしてトウモロコシとかぼちゃの乗った皿を差し出してくる。

 なんとも、便利な配膳スライムだ。

 丈二は受け取った野菜を、さっそく網に乗せて焼き始める。


「こらぁー! 待ちなさい!!」

「みぃー!!」


 なにやら叫び声が聞こえた。

 バーベキュー会場を見回すと、隅っこのほうで牛巻がごましおを追いかけ回していた。

 お魚咥えたドラ猫を追いかけているのだろうか?

 魚ならいくらでもあるので、あげても問題は無いのだが。


「それは君には早いの。渡しなさい!」

「みぃぃぃぃ!!」

「あれ、マタタビか?」


 魚でも咥えているのかと思いきや、ごましおが咥えていたのは木の枝だ。

 一部のケットシーは嗜好品としてマタタビを使っている。

 バーベキューに持ち込まれたマタタビを、ごましおが盗んだのだろう。


 マタタビは成猫に適切な量を与える分には、ストレス発散になる。

 しかし、子猫に与えてしまうと、神経を狂わせてパニックを起こす可能性があるらしい。

 最悪の場合は呼吸困難を引き起こし、死に至るとか。


 ごましおの場合は、半分モンスターみたいなものなので大丈夫だろうが……それでも絶対とは言い切れない。

 マタタビは取り上げた方が良いだろう。


「うぅー、ちょこまかと逃げよって……」

「みぃー♪」


 しかし、牛巻ではごましおを捕まえられないらしい。

 ごましおはまだ子猫だが、半分モンスター。

 すばしっこい動きに対応するのは難しいだろう。

 ごましおも、牛巻が捕まえられないと気づいてドヤ顔で上機嫌だ。


「牛巻さん、魔法で援護します!」


 しかし、そこにラスクの援護が入った。

 牛巻の頭に猫耳が生える。

 ……アレが生えるとなにか変わるのだろうか?


「ありがとう、ラスクちゃん。ふふふ、これで逃げられまい!」

「みぃ!?」


 牛巻の動きが少し素早くなる。

 猫のような四足歩行も交えて、ごましおを追い詰める。

 猫耳モードでは身体能力も上がるらしい。


「はい。これは大きくなるまでお預け」

「みぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 牛巻はごましおからマタタビを取り上げた。

 これで一件落着。

 丈二が出る必要も無かった。食事に戻ろうかと思ったのだが。


「まったく、こんな物のどこが良いのか――ふにゃぁぁ……」

「牛巻のやつ……酒に弱いうえにマタタビにまで弱いのか……」


 マタタビを眺めた牛巻は、ふにゃふにゃと倒れるとゴロゴロと小枝に顔をこすりつけていた。

 完全に酔っぱらった猫である。

 ケットシーたちだって、あんな簡単に酔わない。


「サブレ、ちょっと焼き加減を見ててくれるか?」

「了解にゃ!」


 丈二はサブレにトングを渡して、酔っぱらった牛巻の回収へと向かった。

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