第180話 無事に終幕

「はぁー。なんとか終わったぁ」

「疲れた……」


 丈二はがっくりと腰を下ろして、米俵のように担いでいた女の子を下ろす。

 女の子も気が抜けたようで、地面にへたり込んだ。


『お疲れ様!』

『見てても面白かったわwww』

『ホラーゲーム実況っぽかったなwww』


 視聴者のコメントは好評。視聴者数もいつもより多い。

 配信は成功だ。

 後はお客さんの反応なのだが……女の子を見ても表情が変わっていないので分からない。

 楽しくなかったのだろうか?


「どうだったかな。面白かった?」

「……うん。こういうのは初めてだけど、とっても面白かった」


 女の子は控えめながらも、にこりと笑ってくれた。

 少しでも楽しんでくれたのなら、お客を呼んだかいがあったものだ。


(……あのぬいぐるみ、あんな顔だったか?)


 ふと、女の子のぬいぐるみに目を向けると、なんだかげっそりしている。

 苦い漢方でも飲まされたような顔だ。

 さっき見た時は、もっと無表情だった気がするのだが……まぁ、ぬいぐるみが動くわけ無いか。

 丈二は気のせいだろうと納得して立ち上がった。



 その後、肝試し大会は問題なく進み、全ての子供たちが肝試しを終えた。

 最後の挨拶として子供たちを集めた時には、すでに日が傾き始めていた。


「今日はおはぎダンジョンに遊びに来てくれてありがとうございました。楽しかったですか?」

「「「楽しかったです」」」


 子供たちはニコニコと笑顔を浮かべながら答える。

 しっかりと満足いただけたようだ。


「それでは、今日の肝試しを頑張ってくれたモンスターたちに拍手を送ってあげてください」


 丈二が森に手を向けると、そこから血まみれの犬猫族たちがゾロゾロと出て来る。

 当然、血は作り物。犬猫族たちはワーワーと手を振りながら丈二の後ろへと並ぶ。

 さらに、犬猫族たちの最後尾からは寒天が、空からはクジラたちが飛んできた。


『血まみれ犬猫の大行列www』

『早めのハロウィンかな?』

『百鬼夜行じゃないかwww』

『あぁ、霧はヴォルグジラたちが出してたのか……』


「うにゃー、なんども逆さ吊りにされて大変だったにゃあ!」


 行列から飛び出してきたサブレが、グッと背伸びをする。


「あ、女性に掴まれて血まみれになってたのは、サブレだったのか!?」

「そうですにゃ! 僕の迫真の演技は怖かったにゃ?」

「いや、めちゃくちゃビビったよ……」


 女性に掴まれて出てきた猫。嫌にリアルだったが、サブレが演技をしていたらしい。

 お世辞ではなく、サブレの登場によって怖さが引き立てられた。

 助演賞ものだろう。


『あれ、サブレちゃんだったのか……』

『マジで死んでるのかと思ってビビってたわwww』

『演技が得意とは、意外な一面!?』


 丈二は助演で思い出す。

 主演を張ってくれたラスクはドコに行ったのだろうか。

 キョロキョロと見回しても姿が見当たらない。


「主演のラスクはどうしたんだ?」

「『カメラの前に出るのは恥ずかしい』って、あっちで隠れてますにゃ!」

「そうか、まぁ無理に出すわけにいかないし。今日はお疲れだろうから休ませてあげるか」


 やっぱり、配信に出るのは恥ずかしいらしい。

 無理に出てもらう理由も無いので、今日は休ませてあげよう。


『あんなゲキコワ演技してたのに、恥ずかしがり屋なのかwww』

『おはぎダンジョンの新しいスタッフさんなのかな?』

『モングリア配信の時に、もう一人は居るっぽい雰囲気だったよね』

『どんな人か気になるけど、裏方さんを無理に出演させるわけにもいかないか』


 視聴者もラスクが出ないことは納得してくれている。

 気にせず進行していいだろう。


「それじゃあ、最後に記念撮影をしたいから、俺の前に並んでくれるかな?」


 丈二の指示によって、子供たちと犬猫族たちが丈二の前に並ぶ。

 その他のモンスターたちは丈二の後ろに並んだ。

 配信の配信の締めを兼ねて記念撮影だ。


「はーい。撮りますよー」


 牛巻がカメラを構えて、丈二たちにレンズを向ける。

 丈二は控えめにピースサインを作ろうとしたが――ふと、気づいた。


「あれ、一人足りなくないですか?」

「え?」


 丈二と一緒に肝試しへと向かった女の子が見当たらない。

 もしかすると、トイレにでも行っているのだろうか。

 せっかくの撮影なので、嫌じゃ無ければ彼女にも写って欲しいのだが。


「……いえ、生徒は全員揃っていますが」


『本当だ。丈二と居た子が居ない……』

『いやいや、先生ちゃんと数えてやwww』

『もしかして、ガチのいじめか?』


 引率の先生が怪訝な顔をする。

 そんなはずはない。

 丈二は何度も見回すが、女の子は居ない。


「あれ、黒い髪を肩口くらいまで伸ばした女の子。いましたよね」

「……彼女は丈二さんの関係者では無かったのですか?」

「……え?」


 不気味なぬいぐるみを抱えた、誰とも分からない女の子。

 肝試しに増えていたもう一人の生徒に、その場に居た全員がゾッと背筋を冷やした。


『ガチの幽霊……?』

『ひぇ……』

『呼んでしまったのか……』

『まぁ、楽しそうにしてたし、成仏してくれたやろ……』


 そうして、最後に恐怖のオチを迎えて、肝試し大会は幕を閉じた。 

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