第179話 恐怖!! 森に潜む女の謎!!

 少し待っていると、女の子が戻って来た。


「お待たせ」

「良かった。ちょうど俺たちが入る番だったんだ」


 タイミングの良いことに、丈二たちが森へ入る番がやって来ていた。

 いよいよ、肝試しの開始だ。


『肝試しだぁぁぁぁぁ!!』

『ふっ、クソホラー映画で鍛えられた俺の胆力を見せる時が来たか……』

『クソホラー映画は怖くないからクソなのでは……?』


「それじゃあ、行くぞ」

「うん」

「ぐるぅ!」


 丈二たちは霧に覆われた森へと足を踏み入れた。

 森は濃い霧と、うっそうと茂る木々によって薄暗い。

 なんども通い慣れた道のはずなのに、まるで知らない土地のように違って見える。


 ガサガサガサ!!

 横の茂みが騒いだ。

 バッと目線を向けるが、霧の向こうには何も見えない。


「っ!?」

「な、なかなか雰囲気が出てるな……」


 驚いた女の子が、ギュッと丈二の裾を掴んできた。


「あ、ごめん……」

「いや、怖かったら掴んでても良いぞ……俺も怖くておはぎ抱きしめてるし……」

「ぐるるぅ!」


 女の子は遠慮がちに手を放そうとしたが、怖いのは二人とも一緒だ。

 唯一平気そうなのはおはぎだけ。『頑張って!』と、丈二たちを応援してくれている。

 

『さりげない気づかい』

『これがモテる秘訣なのか……?』

『ジョージって人よりモンスターからモテてるし、参考にならないのでは?』

『むしろモンスターからモテたい!!!!』


 その後も丈二たちは、森の中を進んで行く。

 どこかから響く犬猫たちの悲痛な鳴き声。霧の中を走り回る人影。血抜きでもされているように吊られたカラス(おそらく人形)。

 数々の怪奇現象に見舞われながら、丈二たちは日本家屋へとたどり着いた。


「うわ、雰囲気やばいな……」

「こわい……」


 森に現れた日本家屋は、なんとも場違いで不気味だった。

 薄汚れた外壁は、この家がずっと放置されていることを示しているようだ。


『絶対に入ったら駄目なやつじゃん……』

『お前、あそこに入ったんか!? って田舎のおじいちゃんに言われるタイプの建物』

『その後、お坊さんとか呼んで払ってもらうやつなwww』


 がらがらがら。

 恐る恐るドアを開けると、玄関には古ぼけた靴や傘が無造作に散らばっていた。

 奥に廊下が続いているが、足の折れたテーブルやイスで塞がれている。

 実質的に通ることは出来ない。

 そうなると残された道は――。


「二階に上るしかないか……」


 廊下の右側に階段が続いている。

 そこから二階に上ることができそうだ。他に道は無い。


「お、お邪魔しまーす……」

「……します」

「ぐるぅ!」


 丈二たちは靴を履いたまま玄関を上がる。

 ぎしり。

 ミシミシと騒ぐ床をそっと歩き、丈二たちは階段を上る。


 二階には真っすぐな廊下が伸びていた。

 両脇にいくつかの扉があるが、それらは木板によって雑に封じられている。

 一つだけ入れそうな扉は、廊下の奥にある扉だけ。


「あ、開けるぞ……」


 丈二はドアノブを捻って扉を押す。

 苦しむような甲高い音と共に扉が開いた。

 丈二が薄目を開けながら、恐る恐る部屋を覗くと――。


「……あれ、なにも居ないな」


 ゆっくりと部屋に入っても何も起きない。

 そこは最低限の荷物しか置いていないような、質素な部屋だった。

 しかし、床には白いふわふわのカーペットが敷かれており、その上には四角や三角の玩具が散らばっている。赤ちゃんが遊ぶような知育玩具だ。


『お、脅かしやがって……』

『子供部屋かな?』

『お化けは出てこないんか?』

『ふっ、お化けの奴は俺にビビって出てこないよ』


「丈二、あそこに何かあるよ?」


 女の子が指さしたのはベビーベッドだ。

 暗くて良く見えないが、何かが寝そべっているのが見える。

 まさか、本物の赤ちゃんではないだろうが……。


 他に調べられそうな物も無いので、丈二たちはそっとベッドに近づいた。


「人形……だな」

「不気味……」


 ベビーベッドに横たわっていたのは赤ちゃんの人形だ。

 子供がおままごとで使うような、その辺の玩具ショップで売っていそうな人形。

 その脇には男性の写真が貼ってある。


「つーか、俺の写真じゃねぇか……」


 他に素材が無かったのだろう。

 当たり前のように丈二の写真が貼ってある。


『ジョージで草』

『一気に力抜けたわwww』

『もしかして、丈二の子なの?』


 ガクリと丈二たちの気が抜けた時だった。

 ガタン!!

 屋根裏から音が聞こえた。

 何かが這いずるように、ガタガタと音が鳴り響く。


 丈二たちは、その音を追いかけるように目線を動かすと。


「何だアレ、魔法陣か……?」

「血で描かれてる……」


 クローゼットの扉に魔法陣が描かれていた。

 真っ赤な魔法陣は、血で描かれているのだろうか。そう思わせるだけの不気味さがあった。


 ガタガタガタ!!

 何者かが、屋根裏からクローゼットに落ちた。

 ぎぃぃぃぃぃ。

 ゆっくりとクローゼットが開く。

 クローゼットの隙間から血走った瞳が丈二たちを捉えた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 耳障りなうめき声。

 扉を開く手には、血に濡れた刃が光る。

 そして、もう片方の手には、ぽたぽたと血を垂らす猫の死体が握られていた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「ひっ!?」

「ぎゃあああああああああああああ!?」

「ぐるぅ?」


 なんだか、悲鳴が多かった気がするが、そんなことを気にしている暇は無い。

 丈二は慌てて女の子を米俵のように抱きかかえると、部屋から飛び出した。


『うおぉぉぉぉこえぇぇぇぇぇ!?』

『お米様抱っこで草www』

『もうちょっと、カッコよく運べんのか……』

『え、なんか声がおかしくなかったか?』


 しかし、廊下を抜けて階段に差し掛かった時だった。


「あばばば!?」


 足を踏み外して、階段から落っこちそうになる。

 女の子に怪我をさせてはいけないと、丈二はとっさに下になったが。

 ぽよん。

 柔らかい何かにキャッチされた。


(あ、寒天か……)


 どうやら、焦って階段を踏み外すことは想定済みだったらしい。

 寒天にキャッチされて、丈二たちは問題なく階段を降りた。


『安全管理もバッチリやねwww』

『寒天ちゃんナイス!』


 そして丈二たちは玄関から飛び出ようとしたが。


「うぉ、犬猫ゾンビ!?」


 玄関からは血まみれになった犬猫たちが這いあがって来ていた。


「丈二、あっち側!」


 女の子に言われて後ろを見ると、先ほどは封鎖されていた廊下が通れるようになっている。

 こっちから逃げれば良いのだろう。


『犬猫ゾンビwww』

『ちょっと可愛いなwww』

『まぁ、リアルに追いかけられたら普通に怖いけど……』


 その後は廊下を通り、台所の勝手口から逃げ出した。

 ほどなく森を走ると外に出た。

 無事に脱出できたのだろうか?

 丈二が見回していると、笑顔のケットシーが駆け寄って来る。


「お疲れ様ですにゃん。以上で『恐怖!! 森に潜む女の謎!』は終わりですにゃん」


 そんなタイトルだったのか……。

 ともかく、丈二たちの肝試しは無事にクリアできたらしい。

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