第177話 五を四で割った時の余り

 触れ合いモフモフタイムが終わり、丈二は子供たちと共に森へと向かった。

 おはぎダンジョンの森は、いつもと雰囲気が違う。


 もくもくとした霧に覆われて、一メートル先も見えない。

 これなら明るくても雰囲気はバッチリ。

 肝試し大会の雰囲気を出せるだろう。


 ちなみに、この霧を出しているのはヴォルグジラの親子だ。背中の火山から、モクモクと水蒸気を出してくれている。

 もちろん、人体には危険が無いのでご安心。


(まぁ、リハーサルとして霧を出してたら日本家屋にマタンゴが住み着いちゃったんだけど……)


 マタンゴたちが家を気に入っていたのも、このためだ。

 霧を出した後は、しっかりと換気をしたつもりだったのだが不十分だったらしい。

 うっかり、キノコたちに最適な環境を作り出してしまった。


「はーい。それじゃあ肝試しに挑戦する人は誰かなー?」

「はーい!」「はいはいはいはい!!」「はいぃぃ!!」


 牛巻が質問すると、小学生男児たちが多く手を上げて身を乗り出していた。

 女子たちは騒ぐ男子たちをシラっと冷めた目で見てるが、それはそれとしてソワソワしている。楽しみにしてくれているようだ。


『やっぱ、スタッフのお姉さん可愛いな……』

『なんか、猫耳動いてね? 最近のコスプレって凄いんやなぁ』


「それでは、挑戦するために四人グループを作ってください」


 牛巻の掛け声に合わせて、子供たちがわさわさと動き始めた。

 今回の肝試し大会は四人一組で挑戦してもらう。

 そのためのグループ作りだ。


『グループ作り……体育の時間……うっ、頭が……』

『止めてくれ。『はーい。〇人組作ってください』は俺に効く。止めてくれ』

『あばばばばばば』


 一部の視聴者は辛い記憶がフラッシュバックしているらしい。

 しかし、安心して欲しい。

 今回は参加人数を事前に把握した上で、グループ人数を決めている。

 やって来た小学生たちは四で割り切れる。

 悲しい余りが出ることは無い。


(……って、余ってる!?)


 しかし、なぜか一人余っていた。

 うまそうな棒をくれたぬいぐるみを抱いている女の子だ。

 そんなはずはない。

 そう思って、丈二はキョロキョロ見回すが、他はしっかりと四人グループ。

 入れる隙間が無かった。


 こうなっては仕方がない。

 まさか一人で入らせるわけにもいかないので、丈二は声をかける。


「……ごめんね。おじさんとで良いかな?」


 丈二が聞くと、女の子はこくりと頷いた。


『あばばばばばばばばば!?』

『先生と組まされた修学旅行……』

『いや、でもジョージはむしろラッキーじゃね? おはぎちゃんが付いてくるで』


「ぐるぅ!」


 おはぎはパタパタと飛びながら、女の子に近づく。

 『よろしくね!』と、挨拶をするように鼻を近づけていた。

 女の子も微かに口角が上がっている。

 なんとか、暗い思い出になることは避けれそうだ。


『おはぎちゃんは羨ましい!』

『修学旅行の時の先生も、ドラゴンを飼っていればなぁ』

『もし飼ってたとしても、学校行事に連れてこないだろ……』


 そしてグループの決まった生徒たちは、少し時間を空けながら森へと入って行く。

 しばらくすると、『キャーキャー』と叫び声が森から響いて来た。

 サブレやラスクたちは、しっかりとお化け役を務めているようだ。


 丈二も途中で森に入って配信をする。

 具体的なおどかしプランについては丈二も知らない。

 今から少しドキドキしてきた。

 はたして、サブレたちの肝試しはどれくらい怖いのだろうか。

 自分が行くとなると、あんまり怖くないほうが嬉しい……ちょっとだけ手を抜いてくれないだろうか。


 などと考えていると、丈二の裾が引かれた。

 ビクリと驚くが、目を向けると女の子だった。


「おじさん。ちょっとトイレに行っても良い?」

「ああ、ごめんな気が利かなくて、そこのケットシーに案内してもらってくれ」

「うん」


『女の子のトイレ……』

『はい。粛清』

『おまわりさんコイツです』

『まだ何もしてないでしょ!?』

『”まだ”……ね。死刑』

『逮捕から死刑までが早すぎるwww』

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