第176話 お客さんたち
「どうも、丈二です。今日の配信は、以前から予告していた肝試し大会になります」
お昼を過ぎた二時ごろ。
丈二は配信のためにカメラを回し始めた。
『おお、肝試し大会!!』
『こんなに明るいうちからやるのか?』
『怖くないのでは……?』
コメントで指摘されているように、おはぎダンジョンはいつものように明るい雰囲気だ。
しかし、その辺はしっかりと考えてある。
「あんまり暗いと危ないので……ただ、怖くなるように仕掛けはしてあるので、安心してください」
丈二が配信に付いたコメントと話していると、おはぎダンジョンの入り口から『きゃーきゃー』と声が聞こえてきた。
「皆、並んで付いて来てくださいねー」
「「「はーい!」」」
牛巻の案内によって、子供たちが入って来る。
肝試し大会のお客さんたちだ。
子供らしく騒いでいるが、しっかりと牛巻の案内に従っている。
ちなみに、最後尾からは引率の先生が付いてきている。
『キッズの群れだ! 気を付けろジョージ!』
『粛清される前に逃げろ!』
『ロリコン共の叫びwww魂がこもってますねwww』
『ショタコンかもしれん』
『つか、案内人さん可愛くね?』
『ちょこちょこ出て来るジョージの彼女か……』
「あの子たちが、肝試し大会のお客さんになりますね。ちょっと、挨拶してきます」
丈二が走りよると、子供たちは丈二を指差して『わーわー』騒いでいた。
子供の肺活量って凄い。
こうして集団で集まると、マンドラゴラにも負けていないだろう。
丈二は少し気圧されながらも、子供たちに語り掛けた。
「皆さん、今日は遊びに来てくれたありがとうございます。俺がここの責任者をしている丈二です。短い間ですが、よろしくお願いします」
「「「よろしくおねがいします!」」」
あらかじめ練習をしていたのか、子供たちは息のあった挨拶をかましてくる。
なんだか、懐かしい挨拶の仕方だ。
丈二も小学生の頃にやらされてた気がする。
『なんか、俺も小学生のころを思い出すわぁ』
『この子たちって、今は夏休みなんだよな……羨ましい……』
『老いぼれネット民とリアル小学生の対比が辛い……』
『いや、今どきは子供でも配信くらい見るだろ?』
『スマホ持ってるからな。パソコンでカチカチやってた時代とは違うわwww』
『俺小五!!!!!!!!!!!!』
『ああ、インターネット老人たちがジェネレーションギャップで死んでしまう……』
コメントでは、若さの輝きによってひん死になっている人がいる。
まるで太陽に焼かれる吸血鬼のようだ。
あぁ、子供の頃は良かったなぁ……。
丈二も子供のころを思いだして、一瞬だけ遠い目をしていた。
「ねぇねぇ、おはぎちゃんはー?」
「ぜんざいさんに乗りたい!」
「ジョージ、お手!」
「サブレモフらせてー」
しかし、子供たちからの要望の嵐にハッとした。
とりあえず子供たちを案内しなければ。
「今回のメインイベントは肝試しですが、最初にモンスターたちとの触れ合いが予定されています。ただし、モンスターたちも生きています! 乱暴にしたり、嫌がることはしないでください」
「「「はーい」」」
子供たちの元気な返事を聞いて、丈二は牛巻にサインを送った。
それに反応して、牛巻は子供たちに呼びかけて案内を続ける。
「はーい。こっちに来てくださいね。おはぎちゃんたちが待ってますから!」
動き始める子供たちの群れ。
丈二は少し距離を置きながら、それに付いて行く。
そうしてたどり着いたのは、おはぎダンジョンの湖だ。
湖のほとりには、おはぎを始めとしたモンスターたちが待機している。
ここに居ないメンバーは、肝試しの方で重要な役割を任されている。
「これからモンスターに触るけど、丈二さんに言われたように乱暴にしたり嫌がることをしちゃ駄目ですよ。それでは、スタート!」
牛巻の掛け声によって、モフモフタイムが始まる。
子供たちはモンスターに向かっていったが、やはり一番の人気はおはぎとぜんざいだ。
「ぐるぅ!」
「おはぎちゃんカワイイー」
「鱗つるつるー」
「毛の生えてる所はふわふわだよ」
おはぎの所には女の子が多い。
やはり可愛いが最強なのだろう。
おはぎもゴロゴロとお腹を見せて、サービスしてくれている。
「がう」
「でっけぇ……」
「かっけぇ……」
「でかっけぇ……」
一方でぜんざいの元には男子が多い。
やはりカッコイイ狼は人気なのだろう。
しかし、その大きさの威圧感からか、圧倒されている。
ぜんざいは『もっと寄れ』と許してくれているのだが、子供たちには通じない。
そして、意外と人気なのがラムネだった。
「ぎゃう」
ラムネはおはぎやぜんざいほど、触れ合いに協力的じゃない。
湖からジッと子供たちを見降ろしている。
しかし、ラムネの見た目は絵にかいたような恐竜だ。
「うわ、リアル恐竜だよ!」
「触りてぇ……」
「止めとけって、あの目はマジで食ってくるぞ!?」
男の子は何歳になってもドラゴンや恐竜が好きなのだ。
子供たちも、目の前で動く恐竜に興奮していた。
(楽しんでくれてるみたいで良かった――うん?)
丈二が子供たちを見まわしていると、はぐれている子を見つけた。
端っこからぼんやりとモンスターたちを眺めている。
気になった丈二は、ふわふわと浮かぶカメラを子供たちに向けておいて、その子に歩み寄った。
「どうかしたのかな……って、君はいつぞやの」
「……ひさしぶり」
その子はいつだったかの夜に出会った女の子だった。一人で公園に居たので、心配になって話しかけたら逃げてしまったのだ。
あの日の夜と同じように、やけにリアルなぬいぐるみを抱きしめている。
今にも動き出しそうだ。
「そっか、君もこの学校の子だったんだね」
「……そんなところ」
「君は皆と一緒に、モンスターと遊ばないの?」
「必要ない……これ上げる」
そう言って、女の子が差し出してきたのは棒状のお菓子だった。
なんとなく、うまそうな棒だ。
「お礼」
「ああ、ありがとう」
「……それじゃ」
それだけ言い残して、女の子は子供たちの方へと走り出した。
お礼……アイスのお礼だったのだろうか。
「……まぁ、無事で良かったか」
丈二はお菓子の袋を開け、さくさくと食べた。
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